ゲーム理論: 競合他社の戦略に対する最適反応戦略 【2】

2008.05.26

仕事術

ゲーム理論: 競合他社の戦略に対する最適反応戦略 【2】

猪熊 篤史

ビジネスや日常生活において相手の立場を考えて行動することがよくある。そのようなゲーム的な状況について引き続き考えてみたい。

理論的には、X社とY社の支配戦略の組合せであり、ナッシュ均衡となる(引き下げ、引き下げ)が最良の戦略ということになる。前回の質問の解答として、X社のとるべき戦略は「引き下げ」ということになる。

しかし、現実はそう単純ではない。考慮しなければならない多くの要素がある。例えば、このようなゲーム的な状況が1回限りのものなのか?今後も続くのか?続くとすれば何時まで続くのか?有限なのか?無限なのか?などの検討が必要である。また、相手が自分と同じ情報を持っているのか?両者は同時に意思決定するのか?あるいはどちらかが先に意思決定して、その意思決定を知った上で相手が意思決定するのか?さらには、両者は協力することができるのか?など多くの検討課題がある。

価格の引下げが法律に反しないかなども、ゲーム理論の思考からは外れるが重要な問題となるであろう。

直感的に(引き下げ、引き下げ)よりも(維持、維持)の方が良いと感じる読者は多いであろう。共に2500億円の利得に甘んじるよりも、お互いに4000億円の利得を得た方が幸せなはずである。

結論だけ簡単に紹介すると、無限回のゲーム(何時終わるのか想定できないようなゲーム)においては、両者に最大の利得をもたらす(維持、維持)という戦略(トリガー戦略)もナッシュ均衡になる。また、将来の利得の価値が現在の価値に限りなく近いのであれば(将来の不確実性が低ければ)両社に各回平均2500億円以上の期待利得をもたらす様々な戦略の組合せがナッシュ均衡になる(フォーク定理)。

結局のところ、前提条件や解釈の仕方によって何でもありということにもなる。また、上述のような合理的プレーヤーの解答ではなく、非合理的なプレーヤーの解答としては、それこそ何でもありである。現実の世界では合理的でないことが合理的であったりする。

ゲーム理論において重要なのは、最適な戦略を探すための思考法、確率を用いた思考法、現実の意思決定に対する示唆である。

例題は「囚人のジレンマ」と呼ばれるゲーム理論の代表的な問題を応用したものである。その他に「男女の争い」、「チェーンストアー・パラドクス」と呼ばれる問題などもある。

「両社共に効率化によって大幅値下げが可能なイノベーションを実現した」、あるいは、「自社の価格維持に対して他社が価格引下げを行い自社の売上が短期間で激減するような場合は、経営陣は全員解任され、株主からの訴訟は避け難く、銀行は資金を引き上げて会社は破綻する(一度限りのゲーム)」と考えたら、より現実に近い緊張感を持って例題を考えることが出来るかも知れない。

【V.スピリット No.28より】

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