/企業の寿命は三十年、と言われたが、いまの実感としては、せいぜい十年。設備投資をして、人事組織を挙げて、定款の使命に取り組むゴーイングコンサーンとしての「企業」が原理的に成り立たなくなってきている。百年の土作りという農業ですら、あまりの気候変動で、同じ作物の耕作を続けていけない。/
高校生はもちろん、小学生まで、将来の仕事を考えさせる。だが、いまこの時代に、そんなことに意味があるだろうか。ちょっと前までカリスマ美容師だ、国際サッカー選手だ、連載マンガ家だ、天才パティシエだと言っていたのが、アイドルグループだの、お笑い芸人だの、アニメ声優だの、人気ユーチュバーだのになり、その後、そういうのが掃いて捨てるほど世に湧き出て、みんなあぶれてニッチもサッチもいかなくなっている。
ハヤりスタりは、流行の仕事だけではない。百年の土作りがあってこその農業だが、いくら機械化したって、いや、へたに機械化したって、農村人口の問題だけでなく、あまりの気候変動で、同じ作物の耕作を続けていけない。人間を扱う医療ですら、外科手術が放射線治療になり、内科の抗がん剤、いまや遺伝子解析だ。まして国策の石炭鉄鋼、高度経済成長の電器や自動車、ITだSEだとハヤった仕事も、みんなスタれた。かつて、戦後企業の寿命は三十年、と言われたが、いまの実感としては、せいぜい十年。
一方、人間の人生は、むだに長い。しかし、昔のように徒弟修行して、三十年かけて熟練職人になる、などというのは、かなり特殊な伝統分野に限られる。それも、たいていが世襲限定で、世間の若者が努力で入り込める業界ではない。かといって、大学でまじめに法学や経済学を学んだところで、弁護士や会計士の難関試験に合格したところで、大学だの資格だのはしょせん過去の糟糠だから、そんなのはいまの時代の現実にまったく通用しない。絶対に自分の側の非を認めさせない弁護士は裁判沙汰を引き起こして長引かせるだけのトラブルメーカーだし、会計士がいくら帳尻を合わせたところで、市場収縮で現状維持すらままならない。
今回は、いつも語られる、変革の時代、などという安っぽい話ではない。設備投資をして、人事組織を挙げて、定款の使命に取り組むゴーイングコンサーンとしての「企業」が原理的に成り立たなくなってきているのだ。しかし、考えてみれば、二十世紀のはじめも、繊維会社が機械メーカーになったり、化学工業になったりなんて、めずらしくもなかった。いまほど規模が大きくなかったこともあるが、わりに柔軟に会社丸ごとで転業していた。むしろ、技術水準が上がり、転業の敷居も高くなって、戦後企業の方が硬直化して、身動きが取れなくなったのではないか。
この意味で、同業他社に転職して世を渡り歩いても、実際のところ、どこも似たり寄ったりの苦境。かといって、同じところに留まっていても、過去の成果に甘んじて引退まで持てばいいとしか考えていない上層部は、ただすべてに後手後手の延命策で、結局、若手は、鍋で煮られるカエルのごとく、ただ無意味に右往左往させられ、じわじわと飼い殺しにされるだけ。だから、むしろ、いまいるところを足場に、いろいろ世間を眺めて、その間に自分自身を磨き、ろくに信用も実績もない業界に、その創業の一員として飛び込む、くらいでないと、次の十年、生き残れないのかもしれない。
純丘曜彰(すみおかてるあき)大阪芸術大学教授(哲学)/美術博士(東京藝術大学)、東京大学卒(インター&文学部哲学科)、元ドイツマインツ大学客員教授(メディア学)、元東海大学総合経営学部准教授、元テレビ朝日報道局ブレーン。
百日一考
2024.10.16
2025.01.03
2025.01.14
2025.01.18
2025.02.16
2025.02.27
2026.01.02
2026.07.03
2026.08.16
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。
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