競争の土俵を降りるとき──ビジネスはもっと自由になる

2026.01.05

経営・マネジメント

競争の土俵を降りるとき──ビジネスはもっと自由になる

松井 拓己
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

「競争優位性」の限界と、持続的な成長を実現する「共創優位性」への土俵の移行が必然であることを、期待構造や顧客理解の観点から解説してきました。共創優位性とは、「他社に勝つ力」ではなく「他者と生み出す力」であり、顧客との関係性そのものが企業の優位性となる考え方です。 しかし、多くの方が感じている疑問があるはずです。共創が大切だと分かっても、実際の現場では何がどう変わるのか、ということです。

サポートは「コスト」から「関係資産の源泉」へ変わる

競争OSでは、問い合わせ対応やアフターフォローはコストとして扱われがちです。早く処理し、件数をこなすことが重視され、忙しくなると優先順位が下がります。

共創OSでは、サポートの意味が変わります。

問い合わせは、顧客がどこで迷い、何に不安を感じているかを示す最も正直な情報源になります。

この問い合わせ対応は、単なるコストではなく、顧客の潜在的な期待進化の種を発見する重要な接点と捉えられます。失点を無くすだけのサポートから、顧客に寄り添い、未来の価値を一緒に創るための関係を築くための得点型サポートが本業になります。

KPIは「短期成果」から「関係の深さ」を測る指標へ変わる

競争OSでは、受注数や成約率といった短期指標が中心になります。しかし、共創OSでは、見る数字が変わります。

共創優位の本質は、顧客との長期的な関係性による「顧客と育つ」ことで強くなることです。そのため、売上という結果論を重視する視点から、その手前のメカニズムとしての関係の深さを測る指標が重視されるようになります。

継続率や利用の深さ: 単なる利用ではなく、サービスが顧客の日常にどれだけ深く根付いているか。

顧客の成功指標: サービス利用を通じて、顧客の目的達成や行動変容がどれだけ実現したか。

紹介や共同プロジェクトの発生: 顧客が能動的に我々を応援し、共同作業に参画しているか(行動ロイヤルティ)。

単に売上の数字を追うのではなく、顧客との関係性を高める売上の割合にこだわることが大切です。顧客との関係性を犠牲にする売上(顧客評価の低い売上)や、不確実な売上(やや満足の評価)をいくら増やしても、事業の未来を消耗するだけです。

KPIの変更は、単なる測定方法の変更ではなく、組織の意識と行動の優先順位を変えるためのものです。共創優位が成立した企業ほど、これらの数字が向上・安定し、努力が関係資産として積み上がり、事業成長が加速します。

ビジネスは「消耗戦」から「積み上がる仕事」へ変わる

最も大きな変化は、働く人々の感覚です。

競争OSのもとでは、どれだけ頑張っても毎回ゼロからの勝負になります。機能や価格といった差別化は時間とともに必ず模倣され、優位性は時間とともに縮まる傾向があるからです。これは、企業が常に「ムリ・ムダ・ムラ」を抱えやすい、疲弊の構造です。

共創OSでは、努力が消費されず関係資産として蓄積されます。過去の顧客が協力者になり、説明は減り、共通言語が増え、仕事は「やり直し」ではなく「進化」になります。現場の従業員が顧客接点での成功体験を通じて「顧客に喜ばれる仕事がしたい」という事前期待を醸成し(ES向上)、それがさらにCS向上に結びつくという正のスパイラルが生まれます。ビジネスはもっと自由に、現場はもっと伸び伸びと、活躍の場を広げていくのです。

競争から共創へのシフトは、より強く戦うための戦略ではありません。それは、比較されず、値下げを迫られず、説明し続けなくても選ばれる戦わなくてもよい土俵へ移ることを意味します。その状態を生むのが、顧客と未来を共有する関係性、すなわち共創優位なのです。

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松井 拓己

サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)

サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。              【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新

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