成果が人によってバラつく──これは多くの企業が抱える永遠の課題です。同じ研修を受け、同じマニュアルがあり、同じ戦略を掲げているはずなのに、優秀な人だけが突出し、平均値が伸びない。こうした属人化は、組織にとって静かだが確実に効いていく“構造的な損失”です。
A:Analysis──成功はまず“分解”しなければ再現できない
成功は偶然の塊です。そこには多くの要素が含まれ、何が決め手だったのかが分からないままに終わりがちです。
例えば営業で契約が取れたとします。
・話し方が良かったのか
・資料の構成が良かったのか
・顧客がすでに導入を前向きに考えていたのか
・競合の条件が悪かったのか
・決裁者の性格にたまたま合っていたのか
成功とは、複数の要因が絡み合った“複雑系”です。この複雑系をそのまま「成功」という箱に入れてしまうから、再現できません。
Analysisでは、その複雑さを一つひとつほぐしていきます。ただし、ここで行動だけを分解してはいけません。「事前期待との一致がどこに生じたのか」を軸に分解することが重要です。この“事前期待起点での分解”が、次のステップへの橋渡しになります。
R:Recognition──成果を左右する“事前期待の構造”を読み解く
成功の分解を進めると「なぜ相手はその行動を好意的に受け取ったのか」「その場にはどんな事前期待が流れていたのか」という問いが立ち上がります。
事前期待は、行動よりもはるかに強力です。それは“無言の評価基準”であり、相手の言葉や態度には明示されず、その場の空気や背景の中に埋もれています。Recognitionで扱うのは、この“見えない事前期待”を構造として抽出する作業です。
営業で言えば、
・顧客はどれだけ情報を求めていたか
・顧客は「じっくり相談したい」タイプか「短時間で済ませたい」タイプか
・顧客の裏側にどんな不安があったか
・その不安に対してどの行動が効いたのか
こうした事前期待の構造を捉えることで、成功の“核”があらわになります。行動の表面ではなく、成功の本質に触れる瞬間です。
I:Implementation──再現の型をつくる
事前期待の構造が分かれば、それに対して有効だった行動を「型」として抽象化できます。ただの真似ではなく、「事前期待がこういうときは、この行動が効く」という“事前期待 × 行動”のセットを型として言語化するのです。
例えば、
・結論を急ぐ顧客には、説明よりも先に結論を提示する
・不安が強い顧客には、比較表よりもまず「安心できる理由」を示す
といった具合に、行動の背後にある“対応ルール”を整備していきます。このステップでようやく再現性の最初の形がつくられます。
S:Simulation──小さく試して磨く
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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