成果が人によってバラつく──これは多くの企業が抱える永遠の課題です。同じ研修を受け、同じマニュアルがあり、同じ戦略を掲げているはずなのに、優秀な人だけが突出し、平均値が伸びない。こうした属人化は、組織にとって静かだが確実に効いていく“構造的な損失”です。
なぜ属人化は起こるのか。
その理由はシンプルで、成功を生む「背後のメカニズム」が分解されず、“結果としての成功”だけが語られてしまうからです。
優秀な人の背中を見て学ぶ——。
確かにそれは美しい文化かもしれません。しかしそれは、成功が偶然であったとしても、偶然のまま見逃してしまうということでもあります。
成功の本質は「行動」ではなく「事前期待 × 行動」で生まれる
前回の記事で触れた通り、成功を左右するのは行動そのものではありません。どれほど優れた行動でも、相手の事前事前期待にフィットしなければ成果は出ません。逆に、行動が多少不完全でも、事前期待に合っていれば大きな評価につながります。
しかし現場ではこのロジックが見落とされ、成功した人の「話し方」「提案の仕方」「動きの速さ」といった“行動の型”だけが切り取られます。その結果、属人化は解消されないまま、再現性のないノウハウが量産されていきます。
成功の背後には必ず「事前期待の構造」があります。その構造ごと分解しない限り、成功は“再現”ではなく“偶然”に留まります。
成功が「偶然」のまま終わる理由
もう一度、成功の一般的なフローを整理します。
「経験 → 挑戦 → たまに成功 → 失敗しながら学ぶ」
一見すると正しい成長プロセスですが、ここには決定的に欠けている要素があります。それは「成功の原因を構造化していない」という点です。成功した瞬間、私たちはこう思いがちです。「うまくいった。この方法を続けよう」しかし、何が事前期待にフィットしていたのかが分からないまま行動だけを真似ても、異なる事前期待を持つ相手に対しては通用しません。
成功が一度で終わる人と、二度、三度と成功を重ねる人の差は、後者が必ず「なぜ成功したのか」を構造レベルで捉えようとする点にあります。そして構造をつかむための体系化された方法がARISEモデルです。
ARISEモデルとは何か
ARISEは、成功を「偶然」から「再現可能」へ変換するための5ステップの実践体系です。
- A:Analysis(成功の分解)
- R:Recognition(事前期待の構造を読み解く)
- I:Implementation(再現の型をつくる)
- S:Simulation(小さく試す)
- E:Expansion(横展開する)
重要なのは、このプロセスが「行動を分解するためのフレーム」ではなく「事前期待と行動の関係を分解するためのフレーム」だという点です。行動だけを見ても再現性は生まれません。事前期待という“見えない変数”を扱って初めて、属人化は解消されます。
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2015.07.10
2009.02.10
サービスサイエンティスト (松井サービスコンサルティング)
サービスサイエンティスト(サービス事業改革の専門家)として、業種を問わず数々の企業を支援。国や自治体の外部委員・アドバイザー、日本サービス大賞の選考委員、東京工業大学サービスイノベーションコース非常勤講師、サービス学会理事、サービス研究会のコーディネーター、企業の社外取締役、なども務める。 【最新刊】事前期待~リ・プロデュースから始める顧客価値の再現性と進化の設計図~【代表著書】日本の優れたサービス1―選ばれ続ける6つのポイント、日本の優れたサービス2―6つの壁を乗り越える変革力、サービスイノベーション実践論ーサービスモデルで考える7つの経営革新
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