「手を後ろに回したケア」とは何か。

2024.11.06

ライフ・ソーシャル

「手を後ろに回したケア」とは何か。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

リエイブルメントの実践を目指して。

優れた高齢者住宅では、入居してからどんどん元気になる人や、機能が回復していく人が少なくありません。例えば、「車いすや、つえを使っていた人が普通に歩けるようになる」「やわらかいものしか食べられなかった人が、カツ丼を食べられるようになる」「買い物も掃除もできずヘルパーさんに任せっきりだった人が、普通にできるようになった」など、そんな例は枚挙にいとまがありません。

私たちは「高齢になると身体的に衰えていく一方で、元に戻ることはない」と考えてしまいがちですが、実は全くそうではないわけです。

問題は、若い人たちも高齢者自身も「年を取ると衰える一方だ」と思ってしまうことであると、高齢者に関する研究活動を行う筆者は考えます。そうすると、若い人はお年寄りを「弱者」と見なしてかばおう、守ろうとするし、高齢者は若い人に依存しようとする姿勢が強くなります。実際は、やればできるようになるのですが、やらないからどんどんできなくなっていきます。やらないことが原因で、余計に衰えていくわけです。もし両者が「やればできる」と思っているなら、そうはなりません。よい高齢者住宅を見れば明らかです。

介護の世界には「リエイブルメント」という、「再びできるようになるための支援」を意味する言葉があります。厚生労働省が発表した資料の中には、「“してあげる支援”から“元の生活を取り戻す支援”へ」という分かりやすいフレーズで紹介されています。

「リエイブルメント」の特徴は3つあります。1つ目は、支援の期間が短いこと。その資料では山口県防府市が実施した例が紹介されていますが、基本的には週に1度、3カ月間という短期集中の支援です。セルフマネジメントができるようになるための期間と位置づけ、健康や機能の維持・回復に関する目標を明確にし、手段と計画を立て、それを本当に実行できるようになるためのサポートをしていく期間です。

2つ目は、面談が中心で、個別性の高いサービスであること。当然ながら、健康状態や問題がある箇所やその原因は、人それぞれです。生活習慣が悪化しているなら、そうなった経緯や背景も人によって違います。支援する側は、面談を通してそれらの内容を詳しく知り、その人にとって最適と思われるアドバイスを行っていきます。パーソナル・トレーナーやビジネスコーチングに似たアプローチといってよいでしょう。

そして3つ目は、地域とのつながりや社会参加の機会を提供・提案すること。3カ月の支援期間が過ぎても、本人がいい生活習慣を続けていくためには、地域社会の中に役割を得たり、楽しみの機会を見いだしたりすることが重要であり、支援者はその人に合った地域とのつながり方を提案し、自然な形で地域参加できるよう導きます。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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