高齢期の幸福には、アンチエイジングでなく『アジャスト・エイジング』。

2025.04.14

ライフ・ソーシャル

高齢期の幸福には、アンチエイジングでなく『アジャスト・エイジング』。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

デンマークの高齢者の幸福感に学ぶ。

デンマークで提唱され、今では高齢期のウェルビーイングに関する基本的な考え方として、世界で広く支持されている「高齢者福祉の3原則」。(1)生活の継続性(2)自己決定(3)残っている能力の活用―の3つから成りますが、デンマークをはじめとする北欧の高齢者の高い幸福感は、この3原則の浸透や徹底によるものと言ってよいでしょう。

日本でも「高齢者福祉の3原則」はよく知られるところですが、その中で「生活の継続性」についてはやや誤解があると、高齢者に関する研究活動を行う筆者は考えます。「生活の継続性」が、“同じところに住み続けること”と理解されがちであるからです。「生活の継続性」とは、できるかぎり現役時代と同じような生活スタイルを続けるということであって、生活する“場所”には関係がありません。

例えば、家から1キロ離れたところに食品スーパーがあり、若い頃からそこで買い物をして料理をするというのが日常であったとします。しかし、年を取ると1キロを往復するのがだんだんとつらくなって、買い物に行かなくなる(だから料理もしなくなる)というようなことが起こります。これは、生活の継続性が低下している状態です。

他にも、仕事に毎日出かけたり、済ませないといけない用事があって頻繁に外出したりしていたのに、高齢になって家の近くには仕事も用事も、役割や居場所もなく、暇を持て余してしまうような状態は、それまでの生活が継続できていないということになります。

現役時代に、多少不便でも郊外に一戸建てを購入した人たち、あるいは、どんどん人口減少が進んでいる地方ではこのようなケースは多いでしょう。住み慣れた場所でも、年がたつと、自分も周辺も変化するのは当然で、それによって、若い頃と同じような生活スタイルが継続できなくなってしまう。同じところに住み続けることによって、かえって生活の継続性が失われるということです。

●アジャスト・エイジング
デンマークでは、早め(若いうち)の住み替えが一般化しています。制度などがいろいろと違うので、簡単に日本と比べるわけにはいきませんが、基本的には、いつまでも現役時代と同じように、「できることは自分でやって、自立して楽しく暮らしたい」という意識が高いからだと思います。だから、身体的に衰えても仕事をしなくなっても、自立して快適に過ごせる環境を前向きに検討し、積極的に住み替えようとするのでしょう。

デンマーク在住の澤渡夏代ブラントさんが書いた「デンマークの高齢者が世界一幸せなわけ」(2009年、大月書店)には、デンマーク人は「福祉サービスの恩恵に依存するのではなく、“できる限り自分の生活は自分で”という自立の精神が高い」と記述されていますが、そうした精神が、老いを受け入れた上でしっかりと高齢期に向かって対策をする姿勢に表れているようにも感じます。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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