デンマークの高齢者の幸福感に学ぶ。
日本は、これとはかなり違う印象です。「自立して楽しく暮らしたい」という思いはデンマークと同じであっても、日本の場合はそのために若々しくいようと、老いに抗(あらが)おうとします。デンマークのように、避けられない老いを受け入れ、環境や住まいを見直すことも含めて、積極的に備えや対策を講じるという人は少数派です。実際、元気な状態で高齢者住宅(≠介護施設)に住み替えた方々に伺うと、「友人たちから驚かれる」「不思議がられる」とおっしゃいます。それくらい一般には、「元気なうちに衰えに備える」という発想がないということだと思います。
日本は「アンチ・エイジング」(老いに抗う)、デンマークは「アジャスト・エイジング」(老いに適応する)といったところでしょうか。老いてからの人生が長いことは既に皆が分かっているわけですし、抗ってもいつか限界が来ます。であれば、抗うばかりでなく、「早めに受け入れて備える」という姿勢を学ぶべきだろうと思います。デンマークの高齢者の高い幸福感は、福祉の充実というよりも、それぞれが上手に、かつ若いうちから、高齢期にアジャストしていっているからなのかもしれません。
中でも、ヨーロッパに「福祉は住居に始まり、住居に終わる」という言葉がある通り、住宅はとても重要なポイント。高齢期にふさわしい住まいを確保することが、アジャスト・エイジングへの第一歩となります。
日本では多くの人が、高齢期の住まいについて「自分はまだまだ若いから」「時期尚早」などとおっしゃいますが、それは介護施設の話であって、住宅については早めに考えた方がいいに決まっています。若い方が環境変化に適応する能力は高いでしょうし、転居や断捨離にかかるパワーは若い方が耐えられます。デンマークの人たちが早めに住み替えるのは、この点をよく分かっているからかもしれません。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。
