リエイブルメントの実践を目指して。
そもそも、介護保険法第一条の「目的」には、「(要介護状態にある人が)尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう」とあります。これを読むと、「リエイブルメント」などという言葉がなくても、もともと「介護とは自立支援である」と定義されているわけですが、現状、このことはほとんど忘れられ、“してあげる支援”に圧倒的に偏っているように思えます。
リエイブルメントの基本的な考え方は、「手を後ろに回したケア」であるといわれます。手を出すのではなく、手を後ろに回し、してあげるのではなく本人の力を引き出す。それによって、健康維持や機能回復が図れるだけでなく、心に張りが生まれ、尊厳も保たれ、その人らしく暮らし続けられるようになる――。このようなケアの考え方が、日本にももっと広がっていくことを望みます。
リエイブルメントを実践している、数少ない例を紹介しましょう。
「中楽坊」(ちゅうらくぼう)というブランドで展開されている高齢者住宅がありますが、ここでは、入居者の生活支援を担当するスタッフを「アテンダント」と呼んでいます。ほとんどの高齢者住宅では「コンシェルジュ」という呼称ですし、ファミリーマンションでも入居者サービスを行うスタッフはそう呼ばれているのに、なぜ「アテンダント」としているのか尋ねたことがあります。
その理由は、「アテンダント」は「アテンドする人、導き役」という意味で、何でもして差し上げるのではなく、やるのは本人であり、スタッフは必要な情報や機会の提供にとどめるようにしているからだそうです。「アテンダントは人と人、人と機会をつなぐ媒介役であり、執り成し役であり、言われたら何でもやるコンシェルジュとは違うからです」と言っておられました。
見学したらすぐに分かりますが、入居者の人たちの間では「自分でやる」「声をかけあって一緒にやる」「助け合う」といったことが自然に行われていました。アテンダントはそれを“手を後ろに回して”いるように見ており、必要なときに必要なだけの手助けをしています。最先端の高齢者ケアが行われている住宅だと感心したのを覚えています。これこそ、まさにリエイブルメントだと思うのです。
高齢社会
2024.03.06
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。