前回の「残念なDXからいかに抜け出すか DXにはマーケティングが欠落している?」(https://www.insightnow.jp/article/11890) 第1回は、日本企業のDXに存在する「残念なDX」現象をテーマに、顧客志向が弱いこと、そもそも成功なのか失敗なのか明確でないという話をしました。今回はDXの誤解と失敗の原因について、さらに一歩進んだ話をしたいと思います。
①需要性
誰に(Who):顕在・潜在的なニーズを持った人に
②先行優位性
何を(What):従来と違う「何か」の
③経済性
何を(What):お金を払う「価値」を
④競争優位性
どうやって(How):自社ならではの強みを活かして
⑤戦略性
提供する、「目指す姿」を明確に描いたもの
このようなDXの成功例として、アシックスの事例をご紹介します。DXブームの前からずっとやっている施策ですが、DXの視点で見ても非常に良い取り組みです。2002年から、アシックスの各直営店に3次元足形計測機という計測器が置いてあります。日本で200台、海外で100台ほど稼働し、今では100万人を超える足形データを蓄積。客も自分で気づいていないような足の形状から、歩き方や走り方のクセのようなものを定量的に把握します。そのデータを基に、目的に合わせてジャストフィットするシューズを選んだり、シューズに合わせて中敷きをカスタマイズしたり、どんなソックスがいいかアドバイスしたりしてくれます。また、自分で足形を計測して、オンラインでシューズがオーダーできるアプリも作っています。
この取り組みを先ほどのビジネスモデルの定義で見ていくと、受容性(誰に)は「顕在・潜在的に自分の足形や走り方・歩き方が気になる人に向けて」となります。経済産業省もDXの定義の中で「ニーズから考えろ」と言っている通り、顧客のニーズに基づいています。
先行者優位性(何を)では、「従来の販売員による“勘と経験”」ではなく、「機器による正確な測定」をし、「20年かけて蓄積した100万人を越えるデータを活用して」となります。デジタル技術とデータ活用、つまり、データドリブンにやっているわけです。
経済性(何を)では、「(顧客が足を靴に合わせるのではなく)自分にジャストフィットし、負担なく歩けたり、タイムが出せる走りができたりすることを実現できる“価値”を提供」しています。つまり「顧客への提供価値」の変革をしているわけです。
競争優位性(どうやって)は、「多くの直営店網とオンライン販売いう顧客接点で、一朝一夕には蓄積できない膨大なデータの下支えを持って」競争優位性を作っています。
戦略では、「それぞれの顧客に足の形状や走りのクセなど、顧客の新たな気づきを促進しつつ、快適な履き心地を提供するという、顧客との“価値の協創”を実現」しています。
富士 アシックスの取り組みは顧客にだいぶ近いですよね。今までのDXはあまり顧客に近くないというか、業務改善のようなものが多かったのです。われわれが言いたいのは、顧客に近いところが大事だということです。企業がDXに取り組むことによって、顧客幸福につながっていく。今まで職人の勘でやっていたものがデジタル化されて、ビジネスモデルが変わっていく。そういう点で非常に分かりやすい、良い事例です。
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残念なDX
2024.01.31
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2024.05.20