イスラエルに対する怒りの日『エゼキエル書』

2023.11.05

ライフ・ソーシャル

イスラエルに対する怒りの日『エゼキエル書』

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/バビロンの虜囚の地で、エゼキエルという者が、イスラエルの地に残って偶像を崇拝し傲慢不遜になってしまっていた人々に対する神の怒りを伝えた。そして、神は、むしろ異教のゴグ(獣人)たちに、イスラエルの無防備の村に攻め入る、悪しき謀りごとを企てよ、と神の指示を伝えるよう、彼に命じる。/

古代のユダヤの人々が、みなまっとうなユダヤ教徒だったわけではない。紀元前1021年にできた統一イスラエル王国は、わずか三代、ソロモン王の繁栄の下、腐敗して、その死後、南半はユダ王国として独立。しかし、北半イスラエル王国は、紀元前720年、新アッシリア王国に滅ぼされ、紀元前597年には、南半ユダ王国も、新バビロニア帝国に攻め込まれ、その多くの人々を捕虜として首都バビロンに連れ去った。その虜囚の地で、エゼキエルという者が、イスラエルの地に残って偶像を崇拝し傲慢不遜になってしまっていた人々に対する神の怒りを伝えた。

神は言う、たとえユダヤの人々を遠い他国に移し、世界に散らしても、その先々で自分は彼らの聖所となり、やがて彼らをふたたび集めてイスラエルの地を与えよう、無数の骨の山をも生き返らせ、彼らをイスラエルの地に戻そう、と。しかるにいま、そのイスラエルの地で、自分たちは良い牧場の良い草を食み、澄んだ水を飲みながら、その残りの草を踏み、水を足で濁し、それを私の痩せた羊たちに喰わせ飲ませるとは、どういうことか。彼らは、みずから自分たちの国を汚し、諸国の中で私の名を辱めた。

彼らは頭にかぶり物を乗せ、腕の占いヒモに魂を奪われ、むなしいまぼろしの平和にうつつを抜かしている。だから、私は彼らに災厄を与え、だれがほんとうの主か、彼らに思い知らせる。私は、世界の喜びのために、イスラエルを荒れ地にする。そうすることで、ふたたびくじ引きによって、ユダヤの人々はもちろん、異教の人々にも平等公平に土地を分け直さなければならない。

そして、神は、むしろ異教のゴグ(獣人)たちへ神の指示を伝えるよう、エゼキエルに命じる。すなわち、イスラエルの無防備の村に攻め入る、悪しき謀りごとを企てよ、と。そして、その怒りの日、神もまた、イスラエルの人々に地震と疫病を与え、豪雨と硫黄を降らせ、あらためてみずからこそが主であることを諸国に示す、と。

その怒りの日は、「エゼキエル戦争」と呼ばれ、『ヨハネ黙示録』などでは最後の審判と重ねられている。しかし、『エゼキエル書』は、紀元前600年ころのエゼキエルという実在の人物に発しているとはいえ、紀元前200年ころの「セプトゥアギンタ」(ギリシア語七十人訳)ではかなり短く、現行のものは相当の加筆編纂によって内容的にも改変されているだろうと言われている。

くわえて、全体はエゼキエルの一人称で統一的ながら、その中に神が一人称で語っており、それも、肝心の戦争についての部分は、イスラエルの人々やゴグたちへ伝えるようにエゼキエルに神が命じたもので、その二人称がエゼキエルなのか、それとも、イスラエルの人々か、ゴグたちか、とてもわかりにくい。このために、キリスト教の一部では、神が異教のゴグたちを滅ぼしてイスラエルを救う、などという、トンチンカンな解釈をしている神父や牧師もいるが、全体を通して見れば、そこにあるのは、腐敗したイスラエルの人々に対する神の怒りであって、滅ぼされると預言されているのは、イスラエルにほかならない。だからこそ、この『エゼキエル書』は、聖書の中でも最重要な三大預言者書の一つでありながら、現在でも正統ユダヤ教において三十歳未満の者が読むことが禁じられている。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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