サラリーマンはもはや無理ゲー

2023.08.28

ライフ・ソーシャル

サラリーマンはもはや無理ゲー

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/会社勤めなんかで若いうちの貴重な時間と労力をムダに費やすのは、勝ち目のないゲームに溺れるのと同じ。起業や投資で巨万の富を得ようなどという野心も、日本経済、世界経済の激変の中では、嵐の波間に漂う小舟も同然。もっと手堅く、人に振り回されず、生活資本を確立する道を若いうちに考えろ。/

これから就職して働こうという若者たちの出鼻をくじいて悪いが、アルバイトやパートはもちろん、正社員でも、会社勤めはやめた方がいい。40代でどうにか暮らせるようになるかもしれないが、老後まで考えると、生涯設計として成り立たない。もはやいわゆる無理ゲー。原因ははっきりしている。政治や企業の制度の失敗だ。

第一が年金制度。天引で強制加入させられる払込金額より、老後の受取金額が少ない。勤めている間はわかりにくいが、これは、むりやりマイナス金利で貯蓄させられているのと同じ。どんなに働いても、減る額が増えるだけ。

第二が定年制度。労働人口の減少で、社会全体としては延長する方向にあるが、延長したところで、そのぶん役職定年、契約雇用で給与は激減。そのくせ、保険は強制、年金は停止。じつのところ、生活保護の方がよほどまし、なんていうことにもなりかねない。

第三が税金制度。収益から費用を引いたものが利益で、その利益に対してのみ税金がかかる。しかし、収益は実際に入ってきた金額だが、費用は、それが実際に収益に結びつかなくても、とりあえずそれが収益をめざしたものであったと認められれば、広く(人脈や情報、技能などの無形固定資産への)「先行投資」のようなものでもOKで、個人事業主であれば、入ってきただけ、それどころか入ってくる以上に事業拡大の費用をかけて利益を圧縮するから、税金はほとんどかからない。一方、勤め人は、ただ生きているだけの費用しか控除が認められておらず、健康増進や技能向上などの費用は、自腹を切るしかない。つまり、仕事のためにがんばればがんばるほど、生活は実質的には苦しくなる。

勤め人の唯一の脱出路は、出世競争に勝ち抜いて役員成りすること。そうなれば、死ぬまで年金よりはるかに多い役員報酬をもらって、身の回りのあれこれも企業の費用として落とせる。とはいえ、これは、よほど運と実力がないと難しい。ただ、世襲企業で二代目、三代目のお気に入りになれれば、名ばかりの役員になれることもある。これがムリなら、生活をギリギリまで切り詰め、全財産を投資し、その配当をまた投資して、株主成りする。評価総資産数億くらいまでいけば、配当で賃金相当くらいは捻出できる。とはいえ、これは、全財産を失って破滅するリスクも、かなり大きい。

しかし、勤め人はもちろん、役員になろうと、株主になろうと、そもそも日本では企業が危うい。戦後の大企業は、基本的に大量生産大量販売を前提とする全国組織のビジネスモデルで、それが企業文化、経営風土として染みついてしまっている。そのために、激烈急速な少子化で歯車が逆回転し始めた市場に対応できていない。その軋轢をモロにくらうのが、アルバイトやパート、派遣社員。そして、弱小取引先や、社内の中高年正社員。当座は、これらの人々にツケを回して現状維持を図るが、いずれ企業本体、それどころか日本経済全体が構造的に崩れるのは、もはや必然。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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