高齢期の「選択した孤独」と「意図せぬ孤独」

2023.06.28

ライフ・ソーシャル

高齢期の「選択した孤独」と「意図せぬ孤独」

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

「孤独はよくない。できる限り交流や社会参加をしましょう」は、正しいか?

松尾芭蕉は、東京・日本橋を拠点に、宗匠として多様な俳人や弟子たちとの交流の中で暮らしていましたが、晩年に深川へ転居しています。鴨長明も同じように「方丈庵」を作って移り住みました。

何不自由のない暮らしをしている活躍の著しい俳人・歌人がなぜ、わざわざ質素な家での一人暮らしを選んだのか。諸説ありますが、創作者としての高みを目指すために、孤独が必要であると考えたのは間違いないでしょう。日々、人が寄ってきて関わり合いを持たなくてはならない日常からは生まれてこない作品を創りたかったのではないかと思います。まさに、「選択した孤独」です。

もう一つ注目したいのは、2人とも、そんなに不便で辺ぴなところに移ったのではないことです。日本橋と深川は大した距離ではありません。方丈庵があった場所も、山を少し下りていけば人里があるような場所であったようです(長尾重武著「小さな家の思想 方丈記を建築で読み解く」より)。つまり、人々と交流したいときは交流できる、一人になろうと思えば一人になれる、孤独と交流を自分の意思で選択できる環境であったということです。

こう見てくると、孤独がダメで交流がよい、というのは単純すぎるきらいがあります。高齢期によくないのは「意図せぬ孤独」と「意図せぬ交流」であり、重要なのは、自分の意思で孤独と交流を選択できる環境であるということだと思います。


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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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