高齢者の心身の健康を、過剰な個人情報保護が脅かしている。
この件は、人命の救護で知事表彰を受けていますが、コミュニティーの力がとても分かりやすい事例です。分断された個人の集まりでは、こういう結果にはなりません。どんな人かが分かっている者同士が、日常的にお付き合いしていることで救われる命があり、オープンな関係が築かれているコミュニティーが「安全」や「安心」をつくっているということです。
最近は、見守りセンサーや緊急コールといったものもありますが、当然、これらには限界があります。見守りセンサーは基本的に、「24時間電源のオン/オフが押されない」「温度や照度に異常がある」「一定時間を超えて動きが感知されない」といった場合に作動するものですから、先ほど紹介した一刻を争うようなケースだと亡くなってしまうかもしれません。緊急コールも、当人がボタンを押すことができなければ意味がありません。(実際、先述のケースでは家の中に2カ所、緊急コールボタンが設置されていました)
このように、災害時や急病などの緊急対応といった安全面でも、コミュニティーの力は非常に重要です。個人情報保護に過敏に反応し、個人情報を隠して人間関係を分断していくような対応は、高齢者の安全上、問題が大きいと言わざるを得ません。
個人情報保護法の第一条には、こうあります。
「個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出ならびに活力ある経済社会および豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする」
注意すべきは、「個人情報はそれが適正かつ効果的に活用されれば、活力ある社会、豊かな生活の実現に資する有用なものである」と書かれていることです。個人情報を提供して得られるメリットもあり、個人情報を隠すことによるデメリットもあると理解ができます。
高齢者についていえば、個人情報を適切に活用してくれる事業者であることが前提とはなりますが、自分の情報を提供すればするほど、さまざまな機会が提供されて楽しみができ、安全性も高まるというメリットがあり、一方、隠せば隠すほど孤独や危険のリスクが高まります。
個人情報の悪用や漏えいといった事件の報道がたびたびなされており、情報提供や取り扱いに過敏になるのは分かりますが、高齢者自身は「個人情報を提供するメリット」を、高齢者を対象とした事業者は「隠すデメリット」を、改めて考えてみていただきたいと思います。
高齢社会
2023.01.26
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。