三世代同居の割合激減と、高齢者の体力との関係は?
意識の面も大きいでしょう。3世代同居だと、毎日「おじいちゃん」「おばあちゃん」と呼ばれて大切にされますから、だんだんと「自分は年寄りなのだから出しゃばらない、人に任せる」といった意識が強くなり、知らず知らずのうちに“年寄りっぽく”なっていきます。また、子や孫が普通にやっていることができない、難しいといった場面があるので、年齢による衰えを感じやすくなります。それに比べれば、高齢者のみの世帯では衰えを自覚する機会が少ないため、意識が若々しくいられます。
●「ギャップシニア」は、大した問題ではない。
高齢の1人暮らしや夫婦のみ世帯の増加は不可逆的で、これからも増えていきます。それは、孤独・孤立や社会的不適応の問題と今後も向き合わざるを得ないことを意味しますが、同時に、高齢者の健康状態や体力を向上させていくことにもつながります。高齢者はおそらく、これまで以上に元気になっていくのでしょう。そう考えると、本人にとっても社会にとっても大切なのは、「高齢期の健康や体力をどう生かすか」という発想です。
ところが、世の中の認識はこれとは大きく違います。若い人たちと話をしていると、「離れて暮らす親が心配」という人がいます。親の心配をすること自体は立派なのですが、親の年齢を聞くと60歳そこそこであることがよくあり、苦笑してしまいます(筆者とそう変わらないじゃないか…と)。彼らの中には、「60代であっても、年を取るといつ何があるか分からない」「高齢者は守ってあげなければならない弱い存在だ」というようなイメージがあるのでしょう。
高齢者関連の施策を見ても、例えば「高齢者の社会参加」は重要なテーマになってはいますが、それは健康を損なって要介護状態になるのを防ぐために、できるだけ外出させること、孤立しないよう見守りやすくすることが目的であり、「生かす」という発想ではありません。つまりこれは一昔前の、「高齢者を弱者とみなし、守るべき対象として扱う」というパラダイムから脱しているとはいえません。
日本総合研究所(東京都品川区)が提唱した「ギャップシニア」という言葉があります。年を取って「できること」が減り、「やりたいこと」との間にギャップが生じている高齢者を指し、彼らをどう支援するかが問題だという主張をしていますが、それは大した問題ではありません。本当に解消すべき重要なギャップは、「高齢者の元気さ」対「周囲の弱者目線」、「高齢者の持つ能力」対「周囲の上から目線」にあるのです。
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。