高齢者で、「月に1回以上、病院や診療所に行く人の割合」は、日本が6割、アメリカは2割、ドイツが3割、スウェーデンは1割。そうなる理由は?
内閣府は1980年から5年に一度、「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を実施しています。2020年に発表された調査から、高齢者の健康と医療に関する日本の状況について概観してみたいと思います。(調査対象は60歳以上で、老人介護施設などへの入所者は除かれています)
まず、健康状況については表のようになっています。
「健康である」「あまり健康とはいえないが、病気ではない」を合わせると、日本は男性が91.2%、女性が92.2%となっています。アメリカ、ドイツ、スウェーデンもあまり差がなく、各国とも高齢の人たちの約9割が、病気ではない健康な状態であることが分かります。
なお、80歳以上に限って見てみても同様に、日本は88.4%、その他3つの国でも85%超と高い数値になっており、少なくとも調査対象になった国では、身体的健康という意味では高いレベルにあるといえるでしょう。
●日本の高齢者は「病院に行く回数」が多い
一方、医療サービスの利用状況についてはかなりの差があります。ざっくりといえば、月に1回以上、病院や診療所に行く人の割合は、日本が6割、アメリカは2割、ドイツが3割、スウェーデンは1割ということになります。
その分、他の国よりも日本の高齢者が健康だというなら分かりますが、健康状態は各国でそう変わりません。ということは、高齢者の健康と、医療サービスはそんなに関係がないのではないかと思えてきます。病院の数や行く回数を減らしたら健康が損なわれるかというと、他の国を見ればそうとは言えません。
このことは、北海道夕張市の事例が分かりやすいでしょう。財政破綻した夕張市では、ベッド数が171床あった市立病院が19床の市立診療所に縮小され、医療サービスが“崩壊”とも言えそうな事態になりましたが、がん、心臓病、肺炎で亡くなる人が減り、1人当たりの年間医療費も80万円から70万円へと減ったといいます。
もちろん、医療サービスが減っただけでなく、そのような事態に対応した医師たちの工夫があったわけですが、いずれにしても、病院や診療所などがたくさんあることや、そこに頻繁に通えること自体が、健康にとって重要というわけではないということです。
以前から、「診療所が高齢者の集いの場のようになっている」「高齢者は病院に通い過ぎ」などの批判はありました。諸外国のデータと比較すれば、まさにそうだということになりそうですが、果たして、医療サービスを使い過ぎる高齢者を批判すべきなのでしょうか。筆者は、制度面や医療提供側の姿勢にも問題がかなりあるように感じます。
高齢社会
2021.06.09
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。