コロナ禍で見えた、介護施設とは異なる、「高齢者のみ世帯」の3つのリスク。

画像: TANAKA Juuyoh (田中十洋)

2020.05.13

ライフ・ソーシャル

コロナ禍で見えた、介護施設とは異なる、「高齢者のみ世帯」の3つのリスク。

川口 雅裕
NPO法人・老いの工学研究所 理事長

感染症は、介護施設だけでなく、高齢者のみ世帯にもリスクがある。

感染症全般に言えることだろうが、感染すると高齢になるほど重症化しやすく、死に至る危険も高い。新型コロナウィルスでも、死亡した人の年齢は、70才以上で全体の約85%を占めている。今回、特に注目すべきは、ヨーロッパで死亡者の4~6割が「介護施設」の入所者だったことだ。日本でも、介護施設でいくつもの集団感染が発生している。千葉県ではやはり、死者の半数以上が介護施設の入所者であったようだ。

●介護施設での死者が多い

介護施設で、感染者が出やすい理由はざっと3つ考えられる。

一つ目は、サービス提供において「濃厚接触」が避けられないこと。職員が行う、「抱き起し」「排泄介助」「オムツ替え」「投薬」「部屋の清掃」「食事の介助」「入浴介助」といった行為は近づかないとできない。耳の遠い方には、近くで話しかける必要があるし、自室にキッチンがないから食事は、食堂で集まってとる。サービスをしようと思えば、「三密」は避けられないのである。

二つ目は、共用の設備・用具などが多いことだ。トイレや風呂は共用だし、タオルやシーツなどのリネン類も自分のものを使うわけではない。食事の際に使う食器や箸なども、共用となる。もちろん、施設は清潔に保つ努力をしておられるが、自宅に比べれば、他者が触れたものに接触する機会が当然に多くなるから、感染の可能性も高くなる。

三つめは、そもそも入所者の免疫力・抵抗力が低いこと。要介護認定を受けるなどがないと施設に入れないわけだから、体力が弱っていたり、基礎疾患があったりする方も多いだろう。したがって、健康な人なら感染・発症しない場合でも、感染して重症化してしまう可能性がある。

以上の三点を見ると、介護施設は病院と似たような状況にあることが分かる。濃厚接触が避けがたく、共用の設備・用具も多く、そこにいる人たちの免疫力が低くなっているのは、それぞれ程度の差はあれ介護施設も病院も同じである。感染症の流行時においては、介護施設は医師や看護師がいない病院のようなものといった見方も、あながち間違ってはいないだろう。そう考えれば、今回、少なくない数の介護職員が業務に従事することに二の足を踏んだもうなづける。仕事で自分が感染して、家族にうつしてしまうかもしれないし、自分が施設でのクラスター発生の原因になってしまうかもしれないと考えてしまうだろうからだ。

●「高齢者のみ世帯」のリスク

今回のコロナ禍では緊急事態宣言が出され、外出の自粛が呼びかけられた。社会全体で移動や交流機会が減って、その結果、介護施設以外の「高齢者のみ世帯」で、高齢の人たちの心身に大きな影響があったことは見逃せない。

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川口 雅裕

NPO法人・老いの工学研究所 理事長

高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。

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