パワハラと指導の境界線 旭川医大問題のケーススタディ 

2021.02.09

組織・人材

パワハラと指導の境界線 旭川医大問題のケーススタディ 

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

2020年6月のパワハラ防止法こと「改正労働施策総合推進法」施行もあって、企業や公的団体組織のハラスメント意識は、「パワハラはダメ」レベルから、「パワハラは論外、その防止の実効」と、企業の責任は進みました。大企業・中央官庁だけでなく、全国の中小企業でも実施しているパワハラ・ハラスメント防止講座でリクエストの多いパワハラケーススタディとして、話題となっている旭川医大を例に対応を考えてみましょう。

改正労働施策総合推進法が成立する前から、厚労省はパワハラの定義を行っていました。いわゆる「パワハラ成立の3要件」です。「職場における優越的な関係を背景とした言動」「必要かつ相当な範囲を超えておこなわれること」「雇用する労働者の就業環境が害されること」の3要件を「全て満たす」ことで成立します。

セクハラは被害者の感覚が重視されますが、パワハラは被害を受けたと言うだけでは成立しない点が重要です。それゆえ証拠に基づく客観的判断が、組織管理には何より重要となります。パワハラ研修ではこの点を、管理者も社員もしっかり理解してもらう必要があります。

フライデーデジタルの報道によれば、大学側の説明において、古川病院長に吉田学長が「お前が辞めろ」ト発言したことは病院の患者受け入れ体制、職員を守るためでパワハラにあたらないと、旭川医大役員会議が判断したという説明に、病院関係者は「パワハラかどうかは受けた側が判断すること」というコメントが出ていますが、これは残念ながら正しくないのです。

・旭川医大病院事件をどう見るか
吉田学長の強権的な発言が問題だと報道されています。コロナ患者受け入れ枠を増やしたいという古川病院長に対し「(受け入れを増やしたければ)お前が辞めろ」と発言したとの報道もあります。

めんどうなのは一連の内容が学長と病院長だけでなく、学内会議という組織を通じて病院長解任が決まっている点です。学長が一人で「クビだ!」と言ったところで即座に解雇はできません。しかし正式な学内会議として決定された以上、解任は成立していると考えられます。問題はその会議でも解任理由が情報漏洩や学内混乱という、ある意味「言った者勝ち」状態で証拠が提示されていない点です。

さらに日頃の学長の言動が著しく反発を呼び、長期に渡る学長在任による個人崇拝的な権威性があるのだろうと想像します。企業でもカリスマ的立場の幹部や創業者、社長自らがハラスメントに及んだ際に、企業内組織に自浄能力を発揮するのはきわめて困難です。

しかしながら、かつてならもみ消せたハラスメントも、今やハラスメント防止法や裁判だけでなく、SNSという強力な武器ができました。旭川医大病院事件もマスコミからネットに話題は拡散し、ネット上で大きな関心を呼んでいます。ハラスメント関係記事は反響が大きく、特にこのような独裁的な権威性を持つ事物に対しては炎上的な反応が起こるのが普通です。今、旭川医大病院はここにあるといえます。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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