コロナ(隔離)の時代に、顧客に近づき、顧客とのつながりを保っていくことが極めて重要な課題となっている。世界最大の規模を誇りつつも、ともすれば「時代遅れ」な「古臭い」イメージがついてまわるウォルマートだが、コロナに好機を見出し、顧客との距離を縮めるためにいったいどんな戦略を実装しているのか。
そこに、ウォルマートがマンネリと退屈を解消する「ファミリー・プログラム」を助け船として提供するというわけだから、普段、ウォルマートで買い物をしていなくても飛びつく人も多いだろう。
「キャンプ・バイ・ウォルマート」は、ニューヨークを中心に体験型リテールを展開するCAMP(キャンプ)社との提携によりプロデュースされる。テレビや映画、ミュージカルなどで人気のスターを起用し、アートあり、歌あり、ダンスありなど・・・、ありとあらゆる子供向けの娯楽や学習のアクティビティを提供するという。
「物売り」ではなく、「ライフスタイル・ソリューション・プロバイダー」
ドライブイン・シアターも、キャンプも「ファミリー」を念頭にデザインされたライフスタイル・ソリューションだ。これを機に、ウォルマートはただの「物売り」ではなく、「顧客(ファミリー)の暮らしを楽しく、そして楽(ラク)にする、ライフスタイル・ソリューション・カンパニー」であるという位置づけをより確かなものにする思惑が見て取れる。
これら二つのいずれも、「ウォルマート・アプリ」を通しての情報配信を前提としていることもミソだ。今までウォルマートの買い物客でなかった人たちにもこれを機会に「ウォルマート・アプリ」をダウンロードしてもらい、「ついで」に買い物もしてもらえたらという算段なのだろう。
ここ数年、ウォルマートはミレニアル世代(80年代から2000年にかけて生まれた世代)を顧客に取り込もうと努力に努力を重ねてきた。依然として世界最大、米国最大のリテーラーという規模ゆえの強みはあるものの、「ウォルマート」といえばどうしても古臭いイメージがつきまとう。近年、環境問題への積極的な取り組みや、あらゆる社会問題について明確なスタンスを示していくなど変化がみられるのも、社会的意識の高いミレニアル世代にアピールしようという努力の表れだろう。ジェット・ドット・コム、ボノボス、モッドクロスなどミレニアル世代に人気のネット通販の会社を立て続けに買収したのも、その顧客をウォルマートに取り込むという相乗効果を期待してのことだったが結局は不発に終わった。
ミレニアル世代は、20歳から40歳までという非常に広範囲な年齢層をカバーする世代だが、ちょうど、サマーキャンプを必要とするような小さな子供がいてもおかしくない世代だ。
コロナという一生に一度あるかないかの危機的状況に際して、困っている生活者に少しでも暮らしを便利に、ラクにするソリューションを提供することは、「急場を救ってくれた(る)ウォルマート」という好感の育成につながるだろう。それは定量化しがたいものだけれど、定量化できないからこそ価値の高いものなのだ。コロナ(隔離)の時代に、顧客に近づく、顧客とつながる戦略を次々と編み出しているウォルマートのクリエイティビティに尊敬の念を感じざるを得ない。
革新
2012.01.26
2010.01.14
2009.07.30
2009.05.09
2009.05.07
2009.01.23
2008.04.25
2020.04.28
2020.07.15
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。