ビジネス戦略を語る際によく使われるのが「差別化」という言葉ですが、言葉でいうのは簡単でも、実践して成果を出すのはなかなか難しいものです。「商品」でも、「サービス」でも、「テクノロジー・インフラ」でも差別化が困難な時代に、会社の構成員皆が大切にするコア・パーパス(存在意義)とコア・バリュー(中核となる価値観)を定め、日々の事業活動や社内外の人間関係において実践していくことによって、ずばり「差別化」や「独自性の確立」につなげていくのが、コア・バリュー経営です。
そこで注目されているのが、感情(体験)価値の高いサービスを提供する「土壌」の醸成、つまり、「サービス文化」の醸成なのです。
それも、丁寧なだけの、型にはまった紋切り型のサービスではない。その会社(お店)ならではの「ブランド化された」サービスを提供するためには、そこで働く人たちの間で、ある特定の価値観の共有が必須だと私は考えます。
会社の中で、皆で大切にしたい価値観、「コア・バリュー(中核となる価値観)」を定めて、共有し、それを基盤に日々の意思決定や判断を行い、行動していくこと。それが、「コア・バリュー経営」の目指すところなのです。
ここでは特に、「サービス文化」についてお話していますが、「顧客サービス」といっても、実に様々な色や形をしたサービスがあります。
ザッポスのように、お客さんをWOW(あっ!)といわせる型破りなサービスもあれば、リッツ・カールトンのように、紳士・淑女たるお客様に提供するアップスケールなサービスもあります。
どんな「ブランド化された」サービスを提供するか。それは、サービスについて「どんな価値観を共有するか」「どんな文化を醸成するか」の選択にも直接的に関わってくると思います。
また、「サービス文化」を醸成するということは、会社の中の隅々にまで「サービス=奉仕」の価値観が浸透し、息づき、日々実践されているということでもあります。
サービスの価値観が浸透してこそ「感動のサービス」が提供できる
もう何年も前のことになりますが、ディズニーの社外教育機関であるディズニー・インスティチュートの認定トレーナーの講演を聴く機会がありました。その際にとりわけ印象に残ったことは、「ロイヤルティ・プロフィット・チェーン」というコンセプトです。
同様なコンセプトは、「バリュー・プロフィット・チェーン」や「サービス・プロフィット・チェーン」という名前でも語られています。「顧客満足を得て、それを顧客ロイヤルティの向上、ひいては企業価値の向上につなげていくためには、まず、従業員満足、従業員ロイヤルティを獲得せねばならない」という考え方です。
これをサービスに置き換えて考えると、社内でサービスの精神や体験を体感できていないのに、それを現場で、顧客に対してだけ真心から提供できるかということです。考えてみれば、従業員にはサービスや真心のカケラもない職場を提供しながら、顧客への優れたサービスの提供ばかりを一方的に求めている会社はたくさんあります。結果として、これらの会社のサービス・デリバリーは真心のこもらない、破綻した、うわべだけのものになってしまっています。先ほども書きましたが、人間は機械ではありません。従業員自らが「サービスの精神」を感じられる環境にいないのに、まるでスイッチをオンにするように、現場に立った途端に顧客にほんもののサービスを提供できるかというと、そういうものでもありません。短期的にはできても、長期的な目で見て維持可能ではないでしょう。
サービス経営
2009.07.23
2008.09.13
2008.08.12
2020.03.05
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。