ある日突然K社はかつて隆盛を誇ったM社との合併を発表した。K社のヤリ手女性CEOは腹心の部下で、超一流大学出のエリートと、「対等」なパートナーであるM社の幹部候補だったが直前にM社を見限って辞めた人物を部長に据え、合併作業を進めた。
K社との合併がいつの間にかK社によるM社吸収合併に変わっていったのはむしろ自然な流れだった。清新で登り調子なK社ブランドに比べ、古臭く評判の落ちたM社は抗いようもなく、何より「K社のカンバン」を求め、M社社員は雪崩を打って動き始めたのだ。実際K社が意図したかどうかは不明だが、熱病のようにK社に収斂していく奔流は止まらなくなった。
3か国語を操り、マスコミ対策を知り抜いたK社CEOは、無人の野を進むが如くK社のプレゼンスを上げてきた。地味な販売や営業経験のないCEO自身、マーケティングコミュニケーション・空中戦を得意とし、この商戦でも大いにその存在は注目された。
M社社員の目論みが違い始めたのは合併協議委員会が出来てからだった。両社を代表する幹部が話し合いをしたが、そこを仕切ったのはK社CEOの右腕、超エリート部長で、K社躍進の過程でいつの間にかCEO代理のような立場で仕切っていた。しかし超エリート部長自身に販売経験は乏しく、実績よりはイメージ、CEOとの距離感こそ最大の武器という、ありがちな腰巾着ぶりだった。
こうした中、元M社社員の入社に際しては「選別」が行われることが発表された。もはや対等など消し飛び、一方的な吸収であることが明らかになっていった。M社の幹部や大物のような煙たい存在はK社としては不要であり、またK社の経営方針やブランドイメージにそぐわない社員も不要であることが通告された。
K社のカンバンがなければ困るM社社員たちは右往左往し、結局誓約書を提出し、K社とK社CEOへの忠誠を誓った者だけが採用されることになった。K社CEOは笑顔でマスコミ取材に対し、当社経営ポリシーへの合意なき者は排除すると語った。
K社は業界を制覇すべく、全国で支店展開を行い、業界トップ企業J社を追い抜くというリサーチ結果も現れた。ベテランを排除した結果、急速な支店展開に人材供給が追い付かず、急きょ素人同然の研修生などもK社のカンバンで商戦に加わった。うるさいベテラン営業社員などを排除した成果は、こうしたCEOの命令一下の統一行動でも発揮された。
一方、排除されたM社社員たちは、中には宣誓のような屈辱を拒否した人を含め新生会社のR社を急きょ設立した。また元M社のベテラン社員の多くはどの企業にも属さない個人商店として、商戦に参加した。こうした流れはマスコミでも報道され、顧客はそれを見つめていた。
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2023.07.31
2009.02.10
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。