ワークライフバランスの目的、捉え方、取り組み方。
「ワークライフバランス」とは、仕事(労働時間)と生活(労働以外の生活時間)の調和がとれた状態を言い、その目的は、内閣府の定義にあるように「子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる」状態を作ることというのが一般的な理解である。言い換えれば、女性のライフイベントや親の介護などにも柔軟に対応できるようにするために、労働時間を減らしていくことと理解されている。“ブラック企業”というレッテル、過労自殺などのリスク、人手不足も背景となり、これまでとは違って企業の取り組み方も積極的だ。
だからこそ、もう少し踏み込んで考えてみたい。でなければ、スローガンは掲げたものの実際には長時間労働が是正できないケース、残業時間が削減されただけで個々の生活の充実にはつながらないケース、あるいは残業削減が会社の業績に悪影響を及ぼすといったケースが多くなりそうだからだ。
まず、ワークライフバランス実現への取り組み方である。
業務の効率化やテレワーク、フレックスタイム制などは“ワーク”の部分の改善で、これらはもちろん大切だ。しかしながら、労働以外の時間“ライフ”の部分で、特にしたいことがなければ早く帰ろうとは思わないから、効率化の仕組みを作ったとしてもダラダラ仕事になったり、新たに無駄な仕事を作ったりする結果となり、労働時間の削減にはつながりにくい。特に、会社を自分の“居場所”だと考えている中高年男性は、そうなるだろう。中高年男性が仕切っている職場は多いから、彼らに引きずられて残業も減りにくい。
一方、社外での役割や没頭できる趣味・やりたいことを持っている人は、メリハリをつけて働いている。育児や家事に忙しい女性の仕事振りは手際よくスピーディーだし、時間的制約があるのにしっかり仕事上の責任を果たしている。働き方改革や健康経営を積極的に推進しているカルビーでも、「一粒で二度おいしい」(1日に仕事とプライベートの2回、楽しみがある)をキャッチフレーズに、“ライフ”の充実を重視してワークライフバランスの実現に取り組んでいる。要するに、“ライフ”の充実がワークをより良いものにし、同時に長時間労働も解消するという発想だ。であれば、ライフの充実から入るのが、ワークライフバランス実現への近道だと考えられる。
次に、ワークライフバランスの目的について考える必要がある。
「育児や介護などに柔軟に対応できるようにする」とは、すなわち、「特別の救済措置を施さなくても、育児や介護に時間がさけるような状態にしてあげる」ということだ。しかしそれでは、依然として「家事や育児を気にせず、フルタイムで働ける男性の働きぶりが本来であり、職場の主役である」と認めているのと同じである。つまり、長時間労働の削減をうたいながら、長時間労働を辞さずという昔ながらの働きぶりを正当化するという自己矛盾が生じてしまっている。
組織というもの
2016.01.29
2016.02.12
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NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。