エデンの知恵の木の実:キリスト教的世界観

画像: photo AC: buri さん

2017.07.04

ライフ・ソーシャル

エデンの知恵の木の実:キリスト教的世界観

純丘曜彰 教授博士
大阪芸術大学 哲学教授

/神は、ぜんぶの物事の摂理を知ったうえで、個々の物事をプログラムしている。ところが、人間は、自分の知っている程度のことだけを足場に、あれが良い、これは悪い、と決めつけて、かってにガチャガチャといじくり廻す。/

 鍵となるのは、混乱の元凶が知恵の木の実だということ。神は、ぜんぶの物事の摂理を知ったうえで、個々の物事をプログラムしている。ところが、人間は、自分の知っている程度のことだけを足場に、あれが良い、これは悪い、と決めつけて、かってにガチャガチャといじくり廻す。

 人間からすれば悪とされるものも、神が構想した壮大な摂理のシンフォニーからすれば、ほんとうは善なる世界を自動的に作っていくために必要な一コマ。なのに、かってにそれをむりやり排除しようとして、かえってもっとひどい悪を自分たちで創り出してしまう。逆に、一見、人間からすれば良さそうなものでも、神の言葉や、律法だの聖書だので禁じられているのなら、それは、世界の摂理全体からすれば、なにかまずい問題を秘めている。にもかかわらず、知恵の木の実のように、それに手を出し、いよいよ世界をめちゃくちゃにする。

 つまり、全知全能でもない人間が神のように善悪を決めつけたがることこそ、人間の原罪、その存在の本質に根ざす罪。たしかに人間は神に似ている。だが、絶対に神ではないのだ。にもかかわらず、かってに思い上がって神のように判断し行動するせいで、本当の神が定めた本来の摂理を混乱させている。それで、よけい自分たちが労働や出産、ものを創ることに苦しむ。

 こんなの、しょせんひとつの神話、と言ってしまえばそれまで。しかし、およそ全知全能ではない、たかだかその時代の人間の中ではちょっと物知りという程度のやつらが、平気で世界をひっくり返すようなことを、良いとか悪いとか決めつけて、手を出す、人に勧める。そのせいで、世界中の多くの人々を地獄に落とし、後始末に何百年も人類全体を苦しめる。なんとか倫理委員会、のように、何人も集まったところで、しょせん人間は人間。ことの善悪以前に、そんな連中に、そんな大それた善悪を決めるほどの広大な知の基盤があるのかどうか。賢者と称された席に平気で座れるほど、愚か者はおるまい。

 ちまたにも、さして基盤となる知も無いくせに、神のように偉そうに人を裁きたがるやつらがいっぱいだ。いや、亡霊のように惨めな境遇にある空虚な者ほど、現実を生きている人々に取り付いて、その命を吸い取ることで、生きる感触を得ようとする。しかし、なにもしていない者は、人の善悪を裁いてみたところで、自分自身の空虚さを埋められるわけではない。それでまた、別の標的を求めるが、永遠にその繰り返し。

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純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学 哲学教授

我、何を為すや。忙しさに追われ、自分を見失いがちな日々の中で、先哲古典の言を踏まえ、仕事の生活とは何か、多面的に考察していく思索集。ビジネスニュースとしてシェアメディア INSIGHT NOW! に連載され、livedoor や goo などからもネット配信された珠玉の哲学エッセイを一冊に凝縮。

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純丘曜彰 教授博士

大阪芸術大学 哲学教授

美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。

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