高齢者10万人当たりの刑法犯は平成元年から約3倍になっており、他の年代に比べて突出している。
こう見ると、高齢になるとそもそも良からぬ行動に走りがちになるのだが、昔にはそれなりの抑止力がきいていたので犯罪が少なかっただけだと考えられる。従って、生涯現役、地域社会とのつながりなどは、犯罪の抑止の意味でも重要ということになるだろう。
●“成功者”が多い世代の喪失感
これに加え、高齢世代のこれまでの人生についても考える必要がある。70歳くらいだと戦後すぐの生まれ。子供の頃には、十分に食べ物がないような貧乏を味わった人も少なくない。しかし、学校を卒業するころには高度成長期に入り、働けば働くほど給料は上がって様々なモノを手に入れることができた。40歳代の働き盛りにはバブルが訪れ、多くの部下を持ち、高い収入を得て、企業の幹部として大きな存在感を発揮した。その結果、この世代の多くは、「貧乏やどん底から自力で這い上がった“成功者”」であると自分を認識している。自信にあふれ、会社でチヤホヤされ、家族にも尊敬されたあの感覚はまだ残っているだろう。ここまで“成功者”が多い世代は、かつてなかったはずだ。
このような自覚・感覚と現実の高齢期の暮らしには、過去の高齢者よりはるかに大きなギャップがある。キレる高齢者や高齢者による犯罪の増加は、“成功者”の自覚を持つ人が多い世代が高齢者の仲間入りをし、結果として現役時代との大きなギャップ、ひどい喪失感を感じる人が、昔よりも増えていることが原因ではないだろうか。
いわば、小さなころには勉強もスポーツも何でもできた優等生が、だんだんと普通のレベルになっていき、親や先生や友人たちからチヤホヤされなくなって自信も頑張る動機も失い、余計に成績も落ちて、やる気を失ってヒマになり、昔の自分と今のギャップに悩みながらグレていくのと似ている。そういう少年のだいたいは、自分のせいではなく環境のせいにして社会に反発する。元“成功者”が、キレて暴れるのも、そういうことではないのだろうか。
高齢社会
2016.07.29
2016.09.16
2016.11.11
2016.12.23
2017.02.24
2017.06.13
2019.08.01
2019.09.02
2020.05.13
NPO法人・老いの工学研究所 理事長
高齢期の心身の健康や幸福感に関する研究者。暮らす環境や生活スタイルに焦点を当て、単なる体の健康だけでなく、暮らし全体、人生全体という広い視野から、ポジティブになれるたくさんのエビデンスとともに、高齢者にエールを送る講演を行っています。