/高天原のアマテラスがニニギ、ニギハヤヒを降臨させたのは、倭が貴重な不老不死の霊薬、丹の国で、その大鉱脈を大国主が見つけたから。その争奪のために有象無象が命がけで古代日本を駆け巡った。/
不老長寿の霊薬。水銀というと、すぐに中毒を連想するが、保険の虫歯治療では、いまでも安価な水銀合金(アマルガム)。薬としても、赤チン(ヨーチンとは別のもの)、マーキュロクロム液は、皮膚浸透性の低い有機水銀を使っていた。まして、辰砂、硫化水銀は無機で、気化しないかぎり、ほとんど人体は吸収しない。とはいえ、水銀は常温でもかんたんに気化してしまうのだが。
朱塗りの椀も、高級品はほんものの丹を使っている。というのも、丹は圧倒的な殺菌力があるからだ。ほんものの丹を塗れば、鳥居でも、ミイラでも、絶対に腐らない。直接に飲めば、傷も癒え、病気も治まり、鎮痛や鎮静にも効く、と信じられた。実際、昔は傷そのものより破傷風のような感染症での悪化死亡が多かったであろうし、抗生物質も無い時代、硫化水銀が特効薬となった細菌性の病気も少なくはなかっただろう。そして、『魏志倭人伝』によれば、中国人のおしろいのように、倭国の人々は全身を真っ赤に丹を塗ったくっており、長寿で百歳まで生きる、とか。
なんと魅力的な。だが、水銀は、単体では常温でもかんたんにどんどん気化していってしまう。これを手に入れるには、硫黄と結合している安定した丹の状態でなければならない。そして、水銀が硫黄と結合して丹になるには、火山が必要だ。辰州のあたり、まさに火山地帯なのだが、『魏志倭人伝』のころ、つまり三国志の時代、辰州は西内陸部の蜀の領地。北半の魏が近づくことはできず、丹の入手は非常に困難だった。
ところが、マルコ・ポーロ『東方見聞録』が黄金の国ジパングの幻想を広めたように、ヒミコの魏への朝貢は、倭が丹の国であることを知らしめてしまった。魏に服従した国で貴重な丹が溢れるほど採れるとなれば、一儲けを企む山師たちが命がけでも行かないわけがない。輝く金色のはずの日の丸が真っ赤なのも、日本が丹の国であったからにほかならない。(日の丸の経緯は、また別の機会に。)
山師たちの利権争い
いま、日本は山と言えば鬱蒼と木々が生い茂っている様子を思い浮かべるが、古代、燃料と言えば木にきまっており、日本人が火を使うようになってから、村の周辺から山の奥地まで、木という木はガンガンに切り倒して燃して使った。まして土器を焼くとなると、さらに大量の木材を必要とした。その結果、どこもかしこも禿げ山だらけ。日本的風景の象徴の松も、表土を失った荒れ地の結果。山に登れば、すっかすかで、どこまでも遠くを見通せた。
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2009.11.12
2014.09.01
大阪芸術大学 哲学教授
美術博士(東京藝大)、文学修士(東大)。東大卒。テレビ朝日ブレーン として『朝まで生テレビ!』を立ち上げ、東海大学総合経営学部准教授、グーテンベルク大学メディア学部客員教授などを経て現職。