患者自らの骨を使って骨ネジを作り、そのネジを使って治療する。従来行なわれていた金属ネジを使った手術に比べれば、手術が一度で済み、ネジ代も不要。患者さんに画期的なメリットをもたらす骨ネジは、どうやって開発されたのか。島根大学医学部・内尾教授のグループによる開発プロセスを紹介する。
第2回「一難去ってまた一難」
■ネジをどこで作るのか
「まず手術室の中でネジを作ることができるかどうか。これが勝負のカギでした」
患者の骨からピーナッツ大の骨を取ってきてネジを作る。ということは、ネジ作りは患者が手術室に入ってからの作業となるわけだ。仮に骨を取るためだけに手術をするなら、結局二回手術をしなければならないことになる。
「だから麻酔をかけて骨を削り、直ちにネジを作って、手術に使う。手際の良さが必要なのはもちろんですが、どんな機械を使ってネジを作るのかも極めて重要なポイントなのです」
手作業でネジを作るわけにはいかない。当然何らかのマシンを使う必要がある。となると、スペースの限られた手術室の中に設置できるぐらいのコンパクトさがマシンには求められる。
「コンパクトでありさえすれば、それでOKとはいきません。完全な滅菌仕様であることも絶対条件です。専用の電源が用意されているわけではないので、手術室の100ボルト電源で使えることも必要条件となります。患者さんのことを考えれば、騒音を出すのもダメ。それでいて精度が低くては到底使えない」
そんな機械は世の中に存在しないのだ。仮にどこかの機械メーカーに行き、必要な条件を並べ立てればどんな反応が返ってくるだろうか。顔を洗って出直してこいといわれるぐらいなら、まだましな方だろう。下手をしたら理想を追い求めるあまりちょっとおかしなことを口走るようになってしまったお医者さん、といった受け止め方さえされかねない条件である。
「もちろん、どれだけ非常識な要求をしているのかは理解していました。しかし、この条件をクリアしない限り前へ進むことはできません。何とかならないかと、とにかく調べ回ったのです」
結果的にやってみようという相手が現れた。この特集記事の後半で紹介する株式会社ナノである。とりあえず骨ネジ製造機械の開発協力者は見つかった。とはいえ、それだけで骨ネジができるわけではない。課題まだまだたくさん残されているのだ。
■どんなネジを作ればいいのか
「ネジ自身についても課題はいろいろありました。いくら骨が素材として最適だといっても、それで実際に骨折部分を固定できなければ意味がないわけです」
検討されたのはネジの形である。ネジがどんな形をしているかを、少し思い出していただきたい。山の部分と谷の部分で構成されているはずだ。
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FMO第29弾【島根大学】
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