患者自らの骨を使って骨ネジを作り、そのネジを使って治療する。従来行なわれていた金属ネジを使った手術に比べれば、手術が一度で済み、ネジ代も不要。患者さんに画期的なメリットをもたらす骨ネジは、どうやって開発されたのか。島根大学医学部・内尾教授のグループによる開発プロセスを紹介する。
第1回 「患者さんの負担を減らしたい」
■骨折治療の問題点
「骨折治療では通常、二回手術をしなければなりません。これを何とかしたいと思ったのが、そもそものキッカケなんです」
骨を折ったことのある方なら、おわかりになるだろう。折れたところは金属製のネジで留めて固定する。ところが金属は異物だ。長い間体の中にとどめておくのは、決して好ましいことではない。
「だから抜釘術といって体内に残った金属ネジを取り出す手術が必要なのです。患者さんとしては痛い思いを二回することになり、時間もそれだけかかります。しかも医療用のネジは外国製のものが多く、1本が10万円近くもする。患者さんには肉体的にも、経済的にも負担がかかるのです」
もちろん、こんな状況がそのまま放置されていたわけではない。せめて手術を一回で終わらせることはできないかと考え出されたのが生体吸収性素材を使ったネジである。
「これなら生体との親和性があるから、手術後も抜く必要がありません。しかも皮質骨に近い強度を5ヶ月ぐらい維持するので治療面で金属ネジと比べても遜色なし。さらに金属ネジとは違い術後の経過をMRIでチェックすることもできます。まさに理想的なネジだと、早速導入してみたのです」
金属ネジの問題は価格、二度の手術のほかにもあった。すなわち金属が影響するために患部の様子をMRIで調べることができないのだ。こうした問題をすべて解消すると期待された生体吸収性素材ネジだったが、これが意外な欠点を持っていることが露呈する。
「バレーボールで膝をひねり、膝蓋骨骨折した20代の女性に、このネジを使って手術をしました。1年後の経過は特に不具合もなく順調だったのですが、なんと術後5年も経ってから膝に痛みが出てきたのです。MRIで原因を調べてみると、本来なら完全に吸収されているはずの生体吸収性素材が異物として残り、関節に飛び出して炎症を起こしていました」
看板に偽りありだったわけだ。もっとも、この一例を取って生体吸収性素材が必ずダメだという話ではない。ただしリスクを抱えていることも否定できない。
■理想の素材を求めて
「金属ネジは二回手術しなければなりません。生体吸収性素材にはリスクがある。患者さんの負担を軽くするために、他に何か方法はないのか。こうした問題意識はいつも頭の中にありましたね」
必要は発明の母という。患者の負担軽減を求める内尾教授がこだわったのは次の2点。抜釘術を施さなくても良い素材で作られていること、さらには安価であることである。いくらすばらしい素材があったとしても、ただでさえ高価な金属ネジより高くつくようでは使えない。
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FMO第29弾【島根大学】
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