患者自らの骨を使って骨ネジを作り、そのネジを使って治療する。従来行なわれていた金属ネジを使った手術に比べれば、手術が一度で済み、ネジ代も不要。患者さんに画期的なメリットをもたらす骨ネジは、どうやって開発されたのか。島根大学医学部・内尾教授のグループによる開発プロセスを紹介する。
最終回・特別インタビュー
「骨ネジを千本作った会社は世界中でも当社だけでしょう」
株式会社ナノ 代表取締役社長 林 亮氏
今回のFMO取材に当たっては、島根大学医学部と共同で骨ネジ製造機械を製作した株式会社ナノからも話を聞いた。以下は、同社代表取締役社長林亮氏へのインタビューである。
■御社の経歴を簡単に教えてください
-バブル崩壊まではずっと下請けでやってきました。ところがバブルで工作機械が売れなくなったんですね。自分でいうのもなんですが、技術的にはおそらく大田区界隈ではトップクラスだったと思います。ただ防衛産業に関わっていたために、表に出せないことが多かったんです。培った技術力を生かしていろいろトライしましたが、何しろ資金力がない。最終的にはある企業、大学と共同研究の形でマイクロマシンを開発し、これが結果的には全国の大学研究室に当社の名前が知られるキッカケとなりました。
■それで島根大学医学部の内尾教授が目を付けられたわけですね
-おそらく「マイクロマシン」などのキーワードでインターネット検索されたのでしょう。最初に来られたのは確か内尾研究室の森先生だったと思います。
■骨ネジの話を初めて聞かれたとき、どう思われましたか
-技術的には難しいところはないなと。問題があるとすれば二点、一つはお金ですね。大学の医学部が持っている予算は限られています。テスト機を作るだけでも、相当なコストがかかりますから。あと一つは滅菌対応です。お医者さんの要求は、我々が想定していた次元よりはるかに高いレベルにありました。
■問題をクリアする道筋はある程度、見えていたのでしょうか
-予算の問題は助成金を使う手があるなと。申請手続きなどは、過去に経験のある当社のノウハウを提供しました。もっとも最終的には助成金ではまったく足りなかったわけですが(笑)。滅菌についても旋盤部分を完全滅菌したカバーで覆いクリアしましたね。
■では、骨ネジ製造機械の開発は特に問題もなく進んだと
-もちろん技術レベルでの課題はいくつもありました。たとえば金属でネジを作る場合には潤滑剤として必ず油を使います。ところが手術室の中で油を使うことはあり得ないわけです。だからといって骨を削るのに潤滑剤がいらないわけじゃない。これはヒアルロン酸を使うことで解消しました。また骨は均一素材じゃないわけです。削るときの力のかけ具合が非常に難しい。
■課題解決には時間がかかったのでしょうね
-これまでに誰もやったことのないことをやるわけですから、当然、試行錯誤を繰り返すことになります。
次のページ開発までにどれぐらいの期間が必要でしたか
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
FMO第29弾【島根大学】
2009.11.26
2009.11.19
2009.11.12
2009.11.05