牛という「家畜」を擬人化したら、そのまま「成果主義の社会」を描いただけになってしまったブレンディのWEB限定ムービー。自分たちは「家畜」なのだという現実を思い知らされて怒る人々と、その怒りを理解できない人々がいる。
ツイッター発信だとネット上の一部で盛り上がるだけなので、ご存知ない方も多いかもしれない。AGF(味の素ゼネラルフーヅ)が昨年11月26日に公開したコーヒーブランド・ブレンディのWEB限定ムービー「挽きたてカフェオレ『旅立ち』篇」、ついこの間、ネット炎上した。
特設サイトでしか見られなかったため公開当時は話題にもならなかったのに、1年も経ってから炎上したのには理由がある。今年9月にシンガポールで開催された広告大賞「スパイクス アジア 2015」のフィルム部門で銅賞を獲得したのである。
スパイクスへのエントリーに伴い英語字幕付きで公開されたため、海外の人々の目に触れるようになり、Richard Smart氏の“Japan has a creepy new ad out. I don’t even…”という批判ツイートから、逆輸入の形で日本に戻ってきたのだ。
当のブレンディ特設サイトを見る限りでは、感動作として公開しているので、炎上したことは予想外の出来事なのではないだろうか。サイトのコピーは、『“牛”達の卒業式を描いた超感動作 思わず牛に感情移入?!』とある。未見の方はムービーを一度、見てほしい。
このムービーの描く世界では、「学校に評価されなければ」闘牛場に送られたり、食用のため屠殺されたりする。逆に「見かけが良ければ」動物園で飼われ、濃い乳を出すという「機能が優れていれば」乳牛として牧場で生き延びることができる。ずいぶんとシビアな世界観だが、家畜である牛が置かれている現実はこういうものかもしれない。
濃い乳を出せるようになるために懸命に努力して、ブレンディに採用されて本気で喜ぶ主人公“ウシ子”は、企業の求めるスキルをがんばって身に付け、人事評価されて喜ぶサラリーマンそのものだ。努力したことが成果として認められて、評価される姿を描いたのだから「超感動作」だと思った人々の気持ちもわからないではない。なぜいけない?「努力が報われて評価される」ことはすばらしいではないか?
一体、何が問題なのか分からない人のために、批判した人々の怒りを解説してみよう。
とにかく気持ち悪いのは、「学校が評価する」ことですべてが決まる世界で、「学校に評価されるため」に努力する姿を「感動作」として描いたことにある。その努力の描写に巨乳を揺らして走る女子高生を描くというセクハラ疑惑については、実はあまり関係がない。学校が生徒の生殺与奪の権利を有するという世界観。殺されないためには、その絶対権力者に認められるしかないという世界観。認められるために努力する姿こそが美しい。この世界観そのものが、気持ち悪い。
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