2015.08.04
組織・人材
不採用の理由を「お答えできない」理由 2015
増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
かつて書いたコラム「不採用の理由を『お答えできない』理由」はもう5年以上前のようですが、新卒就活のピークを迎え、特に新卒で就職活動をしている人のために、再度内容を書き直してみました。半分以上書き直す予定だったものが99%書き直しとなり、ほぼ新しいコラムとなりました。
不採用の理由を公開して「企業が」得るものは何もありません。それは組織としてのコミュニケーションとリスク管理の視点からです。
・「うまくいった」感触という誤解
就活では「エントリーシート(ES)まで進むのに、なぜか面接で全滅する」、「面接はいい感じで進んだのに落ちた」といった話をよく聞きます。特に前者はいわゆる有名大学・高偏差値大学の学生から多く聞かれる声です。私はキャリアの講義やセミナーでいつも説明していますが、就職活動とは、会社側から見れば「採用活動」という事業の一環です。これがヒントになります。
「ESまでうまく進んだ」「面接も良い感じだった」というのはあくまで学生側から見た感触。しかし実際にその可否を決めているのは採用側です。何をもって「うまい」と判断したのでしょうか。面接での会話が盛り上がったとか、大きな失敗なく言いたいことが言えたという状況を「うまい」と表現する学生が多いと思いますが、それらと採否が連動しているとは考えにくいのです。面接は上手い話し方を審査するコンテストでも、自分のアピールしたいことを伝えるプレゼンコンペでもありません。また高偏差値大学の学生が書類審査をすいすいと進みやすいのは、学歴フィルターのおかげであって、少なくとも大学名が非常に良ければ、書類審査まではかなりの確率で進めるからです。
・採用の仕組みと学歴フィルター
しかしこれらはいずれにしても採用を決定付けることにはなりません。学歴フィルターに反対する人は学歴だけで選ばれることを批判しますが、現実は学歴だけで「選ばれる」のではなく、一定レベル(多くは1次面接)までの審査を通りやすいというのが実態です。会社は単に学歴(学校名)が良いだけの人材を採用するほど甘くはありませんから、本稿の例で挙げたように、誰もが知る一流大学の学生であっても、面接で会ったところ箸にも棒にもかからないものであれば当然躊躇なく落とします。もちろん一次面接までも進めない学生から見て不平等に感じる気持ちはわかりますが、現実として学歴フィルターが用いられるのは誰もがあこがれる超人気企業である以上、それ以外の予備選抜は難しいため、そうそうなくなる見込みはないものと考えられます。
ESや適性検査を廃止した企業はありますが、面接を廃止する企業は普通はありません。つまり企業は面接で採用を決定するのです。
・不採用と判断されるプロセス
学歴フィルターのように、所属大学名で一次選抜をした場合、偏差値が低い大学だから落としましたと本当のことをいえばまずもめることは必定。このように「不採用の理由」を明らかにしないのは、明らかにすればその後もめることが容易に予想されるからです。年齢や性別、出身地などを理由とする選考は法律で禁止されていますが、たとえば男性従業員が圧倒的多数の事業所で女性を採用した場合、トイレや更衣室など新たな社内設備を投資するかどうか、企業にしてみれば採用の平等性だけでは割り切れないコスト計算もあります。30歳まで社会に出たことの無い新卒学生を、20代半ばの管理職がゼロから社員教育するのは手間もかかるし、何よりめんどうです。それが正しい理由かどうかは別に、勝手な判断で不採用を決めるというのは、現実には当然あり得るわけで、「勝手な判断」で落としたがゆえに理由開示ができないのは普通なのです。
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増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ 東北大学特任教授/人事コンサルタント
芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。
謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。
大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。
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