世上取沙汰されている交渉事項に隠れているが、TPPの本当の問題点はISDS条項である。妥結を焦るあまり、うっかり受け入れてしまうと、国の政策が振り回されてしまいかねない危険をはらんでいる。先進国を含む多国間協定にこの条項は相応しくなく、もし訴訟乱発を防ぐ歯止め策をきちんと構築できないのなら、むしろ排除すべきである。
http://www.nytimes.com/2015/03/26/business/trans-pacific-partnership-seen-as-door-for-foreign-suits-against-us.html?_r=0
この5月には、Roosevelt Instituteのチーフエコノミストでノーベル経済学賞受賞者、Joseph Stiglitz氏が、米議会の指導的立場にある人たちに「確かに米国は国際訴訟では負けていないが、アンフェアな条項であって企業のみ得をして米国民にとってよくない」として反対するよう手紙で要請している。
http://www.rooseveltinstitute.org/sites/all/files/JEStiglitz%20Trade%20Letter%205.18.15.pdf
実は2013年11月に既に、訴訟の乱発を防ぐことを条件に、ISDS条項の導入については事務方の交渉で合意している。しかしその歯止め手段について具体的な詰めが行われないまま来ており、この終盤にきて再度注目を浴びそうな気配なのである。
漏れ聞こえる報道によると、1)申立期限を一定の年数に限る、2)明らかに法的根拠がない申し立ては迅速に却下する、3)条項適用の場合には情報を公開し手続きを透明化する、といった内容が現在の検討事項だという。これで国際訴訟に前がかりになっている米企業および弁護士に対し何の歯止めになると交渉事務方が考えているのか、何とも理解しがたい。
有効な歯止め手段なしに、こんな危ない条項をどうしてもTPPに含めたいのは、理不尽な訴訟で将来の投資先国から弁償金を奪おうと舌なめずりしている悪徳企業か、環太平洋を股にかけて大型の訴訟フィールドを広げようと躍起になっている多国籍法律事務所くらいだろう。
もしこのまま有効な歯止め手段が見つからないのなら、たとえ事務方で一旦は大枠に合意したとしても、日本は米国の良識派や他の参加国と手を結んで、TPPからはISDS条項を排除すべきである。ISDS条項が必要となる先進国‐途上国間の投資協定は、TPP決着後に個別の2ケ国間で結べばよい。
社会インフラ・制度
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
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