1823年にドイツの科学者ヨハン・デーベライナーは、白金のかけらに水素を吹き付けると点火することに気がつきました。白金は消耗しないのに、その存在によって、吹き付けた水素と空気中の酸素とを反応させることが出来たのです。
化学の世界では、この白金のように、変化しないのに反応を助けるものを「触媒」と言います。触媒は、通常では反応に参加しないような内部エネルギーの小さい分子を反応に参加させるので、見かけ上は反応の速度を増加させる働きを持ちます。
変革においても触媒は大変重要です。通常では変革という反応に参加しないように思える「分子」を反応に参加させ、変革に弾みをつけて成功へと導く必要があるからです。リーダーがいくらひとりで優秀な戦略を描いていわば「水素」を吹き付けても、周りの酸素が参加してくれなければ、火はつきません。一般に、変革の成否は、戦略の優位性と関係者の納得度の掛け算によって図られます。戦略に優位性があり、関係者の納得度も高ければもちろん、成功確率は高くなり成果も上がるでしょう。では、戦略に優位性があっても関係者の納得度が低い、あるいは戦略に優位性がなくても関係者の納得度が高い、さてどちらが成功確率が高く成果が上がるでしょう?
答えは、後者すなわち戦略に優位性がなくても関係者の納得度が高い方です。なぜなら、戦略の優位性は、関係者の納得度によって変革の過程でカバーされるからです。たとえば、全社的に見るとこの戦略はどうだろうと思えるような場合でも、関係者らが納得していれば、変革が前に進むので、その過程で徐々に戦略は最適化されていくものだからです。しかし、逆の場合はそうはいかない。変革が進むにつれて、納得感の低さは、抵抗勢力の台頭を招き、骨抜きになるリスクをはらみます。
では、関係者の納得度を高めるためにはどうしたらよいでしょうか?端的に言えば、関係者の当事者性を高めることです。この変革は自分で起こすもの!という感覚をみなが持てるようにする。
と言うのは簡単ですが、実際にどうしたらよいのでしょうか?当事者性に関する人の心理は次の3つに要約されるのではないかと思います。
1. ひとは打ち込んでいるうちに徐々に自分のことにできる
2. ひとは自分で口にしたことなら自分のこととして捉える
3. ひとは自分に期待されると自分で動く
1番目の点について考えてみましょう。英語で「生まれる」と言うのは、Be Bornと受身形で表されます。言語学的にはもっと複雑な説明になるのでしょうが、簡単に言うと生まれること事態は自動詞なのに、他動詞「生む」の受身形として表現されるということです。何が言いたいかと言うと、ひとはそもそも<自分のこと>を元々持っているのではなく、生まれるという最初の行為からずっと、<人のこと>を<自分のこと>にすることによって、当事者性を<発揮してきた>に過ぎないという事実です。生まれながらに当事者は神以外にいない。
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変革を科学する
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株式会社インサイト・コンサルティング 取締役
わたしはこれまで人と組織の変革に関わってきました。 そこにはいつも自ら変わる働きかけがあり、 異なる質への変化があり、 挑戦と躍動感と成長実感があります。 自分の心に湧き上がるもの、 それは助け合うことができたという満足感と、 実は自分が成長できたという幸福感です。 人生は、絶え間なく続く変革プロジェクト。 読者の皆様が、人、組織、そして自分の、 チェンジリーダーとして役立つ情報を発信します。