東工大の妹尾先生による知的創造論の解説によれば、「創造的な個人はいない」ということが帰結だそうです。ということは、知的創造(Creativity)とは、個人の属性ではなく、関係の属性であると捉える必要があります。だから、知的創造の場を作るには、個人間の相互作用が生まれる場を作るということ。
人の創造とは、ゼロから生み出すのではなく、個人の暗黙知→形式知化されて交換→個人の暗黙知というプロセスであるというのが、野中先生のSECIモデルの意味するところです。
さて、職場においてこの理論を適用するには、これまで2つのアプローチが取られていました。一つは、風土という場の視点で知的創造をどのように促すか、もう一つは、物理的な場という視点で知的創造をどのように促すかです。
前者の風土に関しては、企業教育によるところが大きいでしょう。18世紀の一斉授業スタイルは今日においても継承され、企業教育と言っても教室に詰め込んで先生が教える研修スタイルの域を出ていません。これでは、いくら知的創造と言っても、仕事は教えてもらうものということになります。そこで、職場での学びを促進するWPL(Work Place Learning)が注目を集めるようになってきました。これは、上司のできることを部下に教える(すなわちCopy)と言う意味でのOJTではなく、上司の知らないことを部下と一緒に考えて学ぶという取り組みです。
後者の物理的な面に関して考えると、欧米企業では個室やパーティションで区切られた個室や大きなテーブルの周りに荘厳な椅子を配置する距離のある会議室、日本企業では会社の組織図をそのままデスクの配置図にしたようなオフィス空間での仕事が当たり前で、ようやく最近、コスト削減の視点からフリーアドレス制などの取組みが見られるようになりました。
一方、仕事におけるパラダイムは、2つに大別されます。1つは「情報処理パラダイム」で、大きな仕事はできるだけ互いに独立する単位に分けて分業し階層化を高めて効率を図るという世界。この世界では、やるべきことがはっきりしていて競争は量的効率性で決まるため、他の人に相談しなくても個人で仕事を進められる体制作りが鍵となります。もう1つは「知識創造パラダイム」で、だれも経験したことのない答えが分からない仕事をできるだけ相互に情報を交換することで生み出し学びながら作っていくという世界。この世界では、競争は質的高度性で決まるため、できるだけインタラクティブな関係を作り出すことが鍵となるわけです。
このように考えると、企業教育が情報処理パラダイム(=集合研修型)+職場環境が知識創造パラダイム(=フリーアドレス型)でも、企業教育が知識創造パラダイム(=WPL型)+職場環境が情報処理パラダイム(=独立固定席型)でもダメで、その両方が知識創造パラダイムに基づいて設計されなければならないということになります。したがって、企業教育におけるWPLの推進の仕掛けとしてのフリーアドレス職場空間の設計があるべきということになります。
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株式会社インサイト・コンサルティング 取締役
わたしはこれまで人と組織の変革に関わってきました。 そこにはいつも自ら変わる働きかけがあり、 異なる質への変化があり、 挑戦と躍動感と成長実感があります。 自分の心に湧き上がるもの、 それは助け合うことができたという満足感と、 実は自分が成長できたという幸福感です。 人生は、絶え間なく続く変革プロジェクト。 読者の皆様が、人、組織、そして自分の、 チェンジリーダーとして役立つ情報を発信します。