「感動」は変革を推進して前に突き動かすポジティブな原動力の一つです。「危機感」もその一つですが、ネガティブな力であるという点が違います。ネガティブな原動力は、一点集中型の変革に向いていて、人々を一所に急速に引き付ける効果があります。
不快情動が快情動に転換する際に、そのギャップが大きければ大きいほど感動も大きくなるということになります。逆に言えば、そのギャップが小さいと、同じ刺激に対しても、感動が生まれないということです。そのギャップは、①刺激の強さ、②刺激の新奇性、③学習の程度により左右されます。強い刺激も繰り返されるなら弱くなり、新奇な刺激も一度体験すると新奇性が失われ、経験から学習し予測ができるようになると感動が失われます。特に③は、自ら新たな感動を潰しているような状況であり、頭が固いと言われる要因でしょう。
ということは、同じことをやるにしても、その変革のインパクトの強さ、取り組みの新奇性、そして「どうせこんなもん?」という消極的予測ではなく、「どこまでいける?」という積極的予測という要素を意識して変革に取り組むことが、感動に繋がることになります。
さて、感動の2つの条件が揃ったとしましょう。あとは、人が仕事で感動する「素」は何かということを整理しておきたいと思います。これまでの仕事の中で、感動した仕事を思い出してみてください・・・。恐らく、次のようなときではなかったでしょうか?
「この人たちと、この仕事ができて、自分よくやったな!」
これは、前にも述べました。分解してみると、
<この人たちと>=仲間意識
<この仕事ができて>=貢献意識
<自分よくやったな>=成長意識
という3つの意識が感動を高める要素となるわけです。
これは、マズローの欲求段階説とも対応します。彼は、人間の基本的欲求を5段階で表現しました。
生理的欲求
安全の欲求
親和(所属)の欲求
自我(自尊)の欲求
自己実現の欲求
仲間意識が3番目の親和の欲求、つまり集団帰属の欲求です。同じ仕事でも、この人たちとやれてよかった、自分はぴったりはまった感がある、というのがそれです。
貢献意識が4番目の自我の欲求です。自分の存在が価値があり役に立ったと周りから認められる、感謝される、称えられるというものです。自尊心を形成する快が生じます。
成長意識が5番目の自己実現の欲求です。自分の能力を十分に活かせた、新しいことに取り組めた、この仕事を通して一皮むけたという感覚です。
これら3要素を全く意識しないで、がむしゃらに変革を推し進めて、結果として、幾らかの感動を味わうというのではなく、むしろ、変革を前に進める原動力としての感動が必要であり、その感動が、仲間意識、貢献意識、成長意識から生じるということを踏まえて、変革プロセスを設計し、判断決定してゆくのとでは、大きな違いが生じると思われませんか?
バランスの取れたチェンジリーダーは、これらの要素を決してなおざりにせず、常に人心に心を砕くものです。変革に当事者性を出せないメンバー、意義を見出せないメンバーがいるなら、この感動の「素」を随所に織り交ぜていくのはどうでしょうか?
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変革を科学する
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株式会社インサイト・コンサルティング 取締役
わたしはこれまで人と組織の変革に関わってきました。 そこにはいつも自ら変わる働きかけがあり、 異なる質への変化があり、 挑戦と躍動感と成長実感があります。 自分の心に湧き上がるもの、 それは助け合うことができたという満足感と、 実は自分が成長できたという幸福感です。 人生は、絶え間なく続く変革プロジェクト。 読者の皆様が、人、組織、そして自分の、 チェンジリーダーとして役立つ情報を発信します。