オワハラは企業自らをオワらせる

2015.07.14

組織・人材

オワハラは企業自らをオワらせる

増沢 隆太
株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

大学生の就活が本格化するとともに、学生の間からオワハラ問題が表出しています。人事政策上、今の学生の心情を無視したオワハラは企業自身に致命的なマイナスを呼ぶ可能性があります。

今の学生がとても精神的にひ弱で、少しのプレッシャーでも過大な反応をしてしまうことは採用者ならおわかりでしょう。その学生を追い込めば、その場での同意は得られたところで、その結果はあくまでプレッシャーをかけた無理やりのもの。あとで冷静になれば、その決断は「無理やり言わされたもの」であり、本心ではないことが再確認されます。さらに今の学生にはもっとも大きな影響力を持つ親の存在があり、特に私立大学などは総力をあげてキャリアアドバイザーや就職指導がバックアップし、冷静な判断を支援する体制があります。

大人が冷静に考えれば、プレッシャーで無理に内定を受け入れさせるような企業には、たとえ有名企業・人気企業でも多いに不信を感じ、学生にもそうした意見を伝える可能性が高いでしょう。まして知名度に劣る企業や規模が大きくない企業が、焦って目の前にいる「欲しい」学生を無理やり囲い込もうとしても、今の日本でそれは不可能でしょう。いずれ冷静になった時に、無理を通した10倍以上のしっぺ返しを食らいかねません。企業の致命的なイメージダウンとなり、その翌年以後も後輩たちに悪い印象が伝わる恐れがあります。

やはりオワハラにはどう見ても企業側のメリットはありません。人事担当役員や経営幹部は、絶対に人事担当者の成績評価を無理やり作り上げた内定状況・内定数のような危険な数値で評価すべきではありません。それは自社にとって自殺行為につながりかねない危険な評価です。


・戦略コミュニケーションの視点が抜けたオワハラ
全国の大学でキャリアの指導をしてきましたが、その際に強調するのは「”至誠は天に通ずる”とは限らない」という現実です。私からするときわめて疑問を感じる「願いはいつかかなう」「夢をかなえることがキャリア」というような思い込みに毒された若い人たちは多いと感じます。私のキャリア教育は逆で、「思いが通じないこともある」「夢は自分の希望(欲望)であって、相手にも希望がある」という、社会の現実とバランスを理解させることが重要だという信念です。今の子供たちには思いがかなわない時でも、つぶれずに前に進む心構えを教育することが欠かせないと思うからです。

「第一志望の企業の面接に進めたので、面接の場で感激して泣いてしまった」という学生のエピソードを聞いたことがあります。熱意はわかりますが、それはコミュニケーションではありません。一方的な熱意の押し売りです。「相手目線を持つ」というコミュニケーションの原則*がすっぽり抜け落ちています。(*「戦略思考で鍛えるコミュ力」p.46)逆に相手目線が理解出来た学生は、正に社会人としての適性が生まれ、そのことが伝わるようになればエントリーシートも面接も驚くほど進むように変わります。

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増沢 隆太

株式会社RMロンドンパートナーズ  東北大学特任教授/人事コンサルタント

芸能人から政治家まで、話題の謝罪会見のたびにテレビや新聞で、謝罪の専門家と呼ばれコメントしていますが、実はコミュニケーション専門家であり、人と組織の課題に取組むコンサルタントで大学教授です。 謝罪に限らず、企業や団体組織のあらゆる危機管理や危機対応コミュニケーションについて語っていきます。特に最近はハラスメント研修や講演で、民間企業だけでなく巨大官公庁などまで、幅広く呼ばれています。 大学や企業でコミュニケーション、キャリアに関する講演や個人カウンセリングも行っています。

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