「親子喧嘩」報道に隠されていた路線転換のリスクとハードルの高さを冷静に検討してみると、大塚家具が向かおうとしている「一般大衆路線」の前途は容易ならざるものと覚悟すべき。
この2つの路線の目指すものは全くといっていいほど逆だ。
そして重要なことは、今の同社の調達能力・店舗構造・社員のスキルを最も活かせる可能性が強いのは、ほぼ間違いなく従来の「高級路線」なのだということだ。
例えば(私自身も顧客の一人として経験しているが)同社の販売担当者の提案・説明スキルは他の大量家具販売店のそれとは格段に違うものだ。イケアやニトリのような、お客が勝手に見て回るスタイルの店舗では「宝の持ち腐れ」になってしまいかねない。
また、同社の仕入れ担当者は、ある程度以上の高級家具に関する目利き能力は高いだろうが、コストパフォーマンスを最重要視する若者やファミリー層が魅力を感じるような商品を企画し、大量発注して大幅にコストダウンさせるノウハウも協力工場網も、イケアやニトリに対し格段に劣ることは明白だ。
そもそもこの2強が躍進した原動力であるSPA方式(企画・生産・販売を直結させるやり方)、もしくはカタログ販売方式に本格的に取り組むとしたら、会社の機能と組織体制を大幅に入れ替えないといけない。
2つの路線間のギャップは簡単に埋まるようなものではない。仮に強引に進めた場合には多分、オペレーション上は相当な混乱が予想される。仮にそうしたハードルの高さやリスクをよく理解した上で、それでも敢えて思い切った路線転換を図るというのだったら、小生ならば、別のブランドラインの子会社を立ち上げて、別店舗・別人員で全く違うオペレーションにて行うことをお薦めするだろう。でもどうやら、そうしたやり方を採るという話は聞こえてこない。
そんなこんなを考えると、戦略上の観点だけで言えば、権力闘争に敗れた勝久会長派の判断のほうが正しかったように、傍からは見える。しかし客観的かつロジカルな説得をできる方がいなかったのかも知れない。世の中的にも大株主の動向としても、「世代交代の流れに抗しているだけの創業者とその取り巻き」と評されてしまった模様だ。
では、ここまで明らかに不利な条件の路線転換を、なぜ久美子社長はお家騒動を引き起こしてでも進めようとしてきたのだろうか。ご本人に直接尋ねたわけではないので本当のところは不明なのだが、幾つかの記事コメントから多少の推察は可能だ。
その判断には幾つかの要素が絡んでいそうだ。一つには、高級路線を採る自社の業績が近年伸び悩んでいるのに、低価格路線を進むイケアやニトリは大幅に業績を伸ばしているという事実だ。もう一つは多分、日本社会の少子高齢化・人口減少による国内市場規模の縮小だろう。
経営・事業戦略
2013.07.18
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2014.08.11
2014.06.11
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2014.04.21
パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/