技術情報の流出を伴う転職が頻発する理由には、日本企業の脇の甘さも指摘されるが、韓中側の誘惑に乗りやすい技術者の「希望的」勘違いもありそうだ。
小生は「あくまで選択を決めるのは本人次第」と断ったうえで、その転職に伴うリスクを一つひとつ挙げて、ご本人がどれほど冷静に精査しているのかを確認した。人材紹介企業の人も一応のリスクは説明するだろうが、彼らは成功報酬ゆえ転職させてナンボだから、ご当人にリスクを実感させることにはあまり熱心ではないからだ。
とりわけ気になったのは、相手が日本法人の副社長クラスだということだ。本社マターではないということは、「三顧の礼」というほど重要人物扱いでもなく、いわば「彼」の頭脳にある技術を戴きたいという手軽さを求めている可能性が高いということだ。「彼」の開発能力や開発チ-ム運営能力を買って、本社の開発の中枢に据えようという話ではないのだ。したがって、「彼」が持っている現在進行形の最先端技術の開発に掛る知識を吸収したら、あとはもう用済みとされる可能性は低くないということだ。
もちろん、そうした露骨な言い分ではないだろうが、同様の転職をした日本人技術者が、知識を吐き出した段階からは大したサポート環境も与えられず、「期待されるパフォーマンスを発揮できなかった」という理由で2~3年で退職を余儀なくされたという例を少なからず聞いている。
元々韓国企業の中間管理職以下の人たちは日本人が好きではない(トップの人たちは別の感覚・感情があるかも知れないが)。それでも日本企業と付き合い、日本人を採用しようとするのは、あくまで日本が持つ技術・ノウハウ・アイディアを獲得できると考える故の割り切りだ。彼ら自身、目標を達成しないと首を切られるので、好き嫌いではなく、効果的な手段があればそれを採用するのに躊躇はない。したがってその目標・目的を達成したあとも日本人技術者に対し温情を注ぐ理由はない。用済みとなればお払い箱にすることも躊躇しないだろう。
「彼」自身は、仮に今携わっている技術開発テーマが完了しても、次の新テーマでの開発にも成功する自信があると言う。しかしそれは今の会社で、気心の知れた開発チーム仲間がおり、開発に関わる諸事をサポートしてくれる色々な部署の人たちをよく知っており、時に多少の無理を聞いてもらえるという環境があるからこそではないですか、と小生は尋ねた。「彼」は考え込んだ。
数日後、「彼」からメールが届いた。あの話は断った、今の会社でやれるところまで突っ走る、との趣旨だった。会社はその後もリストラを続けているようだが、少なくとも「彼」の部門は会社の屋台骨を支え続けているようだ。
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パスファインダーズ株式会社 代表取締役 社長
パスファインダーズ社は少数精鋭の戦略コンサルティング会社です。「新規事業の開発・推進」「既存事業の改革」「業務改革」の3つを主テーマとした戦略コンサルティングを、ハンズオン・スタイルにて提供しております。https://www.pathfinders.co.jp/ 弊社は「フォーカス戦略」と「新規事業開発」の研究会『羅針盤倶楽部』の事務局も務めています。中小企業経営者の方々の参加を歓迎します。https://www.pathfinders.co.jp/rashimban/ 代表・日沖の最新著は『ベテラン幹部を納得させろ!~次世代のエースになるための6ステップ~』。本質に立ち返って効果的・効率的に仕事を進めるための、でも少し肩の力を抜いて読める本です。宜しければアマゾンにて検索ください(下記には他の書籍も紹介しています)。 https://www.pathfinders.co.jp/books/