日経MJ8月4日版総合小売り面に、松坂屋上野店の生き残り戦略が紹介されていた。その記事から、これからの日本における商売の姿を少し拡大して考えてみよう。
顧客シェアを高めるためには、囲い込むべき顧客が「自分にピッタリ」と思ってロイヤルティーを高めてくれることが欠かせない。それがデパ地下であれば、自分にピッタリな分量の販売であり、日々の食事にピッタリな品揃えであり、そして、自分に対するアドバイスや提案なのだ。それを、松坂屋上野店のデパ地下は愚直に実行し始めたのだといえる。
景気が回復しつつあるとはいえ、昨今の環境は「ハレの日」を謳歌するゆとりはなく、必死に日々「ケの日」を生きる暮らしである。その中でもゆとりがある層はといえば、今のところ年金がしっかり出ている現在の高齢者と、世代間格差の勝ち組年代ともいわれる中高年だ。記事では売場責任者が「安さを求めるなら、近隣に別のスーパーがある。うちの顧客は求めているものが違う」と言い切っている。ターゲットを絞り込んで、そのターゲット顧客にピッタリな提供価値とポジショニングを明確化しているのである。
百貨店は「ハレの日」の象徴であった。特に高度成長期以来、「小売りの王様」の座に君臨し続けてきた。しかし、百貨店売上高は9兆7131億円を記録した91年をピークに減少に転じた。
もはや「小売りの王様」が君臨する市場という領土は縮小の一途を辿る運命だ。広大な領土を維持する意味はない。必要なのは、小さくとも自らが生きていける、守るべき領土を明確にしてそこでの最適な商売を再構築することが欠かせない。それが、松坂屋上野店のデパ地下の姿なのである。
もちろん、現在の中高年はしばらくするといなくなる。人の世の定めだ。その前に、次の「小さな領土」とそこでの「最適な商売のしかた」に柔軟に組み替えていくことも欠かせないのである。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。