100年に1度と言われたリーマンショック以降の大不況に対して、各社はコスト削減で生き残りを図ってきました。最近になり、景気底打ちの声も聞かれ、ほっとし、「よしコスト削減は終わった。これからは攻めだ」とお考えの経営者の方々も多いのではないでしょうか? 実は、そうした考えは誤りであり、「攻めの時こそコスト低減の時である」ということを、会社更生手続き中の日本航空をケースに学びます。
最近、会社更生手続き中の日本航空(JAL、日航)が、再建に向けてコスト削減を加速させているとの報道がありました。
8月末の更生計画案の提出に向け、日航ではコスト削減の取組を続けています。たとえば、整備工具、資材を新品と中古を分けて保管し、新品には単価を記載し、なるべく長く使用することを促す。全社員からコスト削減のアイデアを募り、7000件を超える提案を集める。その中から、人員削減で余った机やイスをイントラネットで公開し、グループ全体で再利用、両面コピーを取る、休み時間に電気を消すなどの提案を励行しているとのことです。パイロットの深夜、早朝を除く帰宅時のタクシー送迎の原則禁止が導入され、空港まで自家用車での通勤を促す計画もあるといいます。飛行条件に応じて燃費が最もよいルート、高度や速度、燃料の搭載量を細かく見直すことによる10億円のコスト削減を含めると、こうした努力の積み重ねで30億円のコスト削減ができると日航は試算しているとのことです。(出所:2010年7月22日 読売新聞 Yomiuri Onine)
30億円というと大きなコスト削減と思われるかもしれませんが、2009年度の日航の事業コストは約2兆円で、30億円のコスト削減は0.15%に過ぎません。また、2010年の6月末には、日航の債務超過金額は約1兆円となっています。
こうした数字が示すのは、日航に必要なのは小手先のコスト削減ではなく、抜本的な収益構造、コスト構造の転換です。
たとえば、主な航空会社が1座席を1km飛ばすのに必要な輸送単位コストはANAが約15円、ルフトハンザが約13円、AF-KLMが約10円、スカイマークが8.5円、シンガポールが約7円、デルタが約5.5円、エア・アジアが2.7円です。(出所:2010年7月9日 日本経済新聞 17面)日航はデータがないので分かりませんが、ANAとの収益力の違いを考えると、ANAを上回っているのではないかと思います。
コスト削減というと、とにかく支出を抑える、コストを下げる、無駄を省けばよいと思われがちですが、コスト削減には何らかの投資が必要です。どんなコストでもそれを下げようとすれば、どのような方法があるのか、それによって問題が生じないか、そのコスト削減方法を社内に浸透させるために、少なくとも従業員を一人はその問題に貼り付けなければなりません。
加えて、収益構造を変える、コスト構造を抜本的にかえるようなコスト低減には、設備を変えるなどのキャッシュでの投資が不可欠なことがほとんどです。
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株式会社 戦略調達 代表取締役社長
コスト削減・経費削減のヒントを提供する「週刊 戦略調達」、環境負荷を低減する商品・サービスの開発事例や、それを支えるサプライヤなどを紹介する「環境調達.com」を中心に、開発・調達・購買業務とそのマネジメントのあり方について情報提供していきます