納豆が伸びるといっても、糸を引いているわけでも、粘ついているのでもない。ミツカンの納豆事業のシェアが伸びているというのだ。そのヒミツを探ってみよう。
両社の原点の違いは戦略にも現れる。
タカノフーズは納豆の大規模生産のパイオニアでもある。高度成長期、チェーンストアの出店ラッシュに対応して生産体制を増強してきた同社であるが、まだ需要に追いつかないという状況を解消するため、昭和47年1972年に日産20万食体制、1975年に50万食体制段階的に強化を図ってきた。
一方のミツカンは、酢の醸造という大規模生産のもう一方の柱として、その規模も活かせるという理由から納豆を選んだ経緯からすれば、はじめから「規模」を追うことは事業計画に組み込まれたことであると解釈できる。そのため、アグレッシブにシェア獲得に向けた動きを見せるのである。
ミツカンの納豆事業における大きなエポックとなったのが2000年の「におわなっとう」の発売である。事業参入から2年、さらなる成長を目指して競合と差別化ができる要素を模索していたという。その時、消費者の立場で考えたところ「納豆は好きだけれど、においが気になる」というニーズギャップがあるのではと思い至ったという(同社ホームページより)。酢の醸造発酵で培った「菌」の技術で試行錯誤し、1年間かけ、2万個の納豆菌の中から「においの元を作らない菌」を発見した。(同)そして現在、同社は「納豆菌」の保有数では、日本一(Wikipediaの記述)を誇るに至っているという。
「経営戦略」と「マーケティング」の違いは何か?と尋ねられることがよくある。様々な解釈があるが、一つは「視点の違い」だと筆者は説明することがある。
ミツカンの例で考えれば、企業としてのさらなる発展のため、もう一つの柱となる事業を構築しようと納豆事業を立ち上げた。それには、成長戦略として「生産シナジー」が図れるという内部要素があったからだ。いってみれば、それらは全て「自社の視点」である。
それが、「競合との差別化を図る」という、これも自社の視点であるが、「顧客のニーズギャップ」に注目して解を得ている。つまり、この時点で「顧客視点」への転換が図られているのである。
マーケティング視点、顧客視点を中心とした開発は、同社にさらなるエポックメーキングな商品を誕生させることとなった。2008年発売の『金のつぶ「あらっ便利!」』がそれだ。
ミツカンは顧客の声を調査して、「納豆のパックのフィルムやカラシなどの小袋が開けづらかったり、開ける際に手が汚れたり、開けた後の始末に困るなどでイライラした経験がある」という人が9割に上ることを明らかにした。そこで、同社は調味料メーカーとしての技術を応用し、タレにとろみをつけ、つまんで混ぜられるようにするという、「コロンブスの卵」的な解決策を見いだしたのである。
パッケージを開ける時のイライラなど、普通に考えれば「しかたがないこと」と思ってしまうことだが、「便利になりました」と提案されれば、試してみよと購入の手を伸ばす理由になる。顧客のニーズギャップに注目して、「購入棄却理由」を払拭し、「購入理由(KBF=Key Buying Factor)」に転換していくことは、まさにマーケティングの真骨頂だといえるだろう。
納豆市場のトップシェアを狙うミツカンの強さのヒミツ。それは、一つは、自社の技術や生産体制という「生産シナジー」を活かし、「規模化」を前提とした「経営戦略」。もう一つが、「顧客視点」に徹底して踏み込んだ「マーケティング戦略」。その二つがシームレスで絶妙なバランスを構築していることにあるといえるだろう。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。