4月8日、アサヒ飲料がハウス食品の「六甲のおいしい水」事業を買収したと発表があった。その戦略的意図を考察してみよう。
少し話を拡大して考えてみよう。アサヒ飲料がそもそも、このタイミングで事業買収を使用とした意味だ。
恐らく同社は、様々な市場の動向を、10%というシェアをマジックナンバーとして見ているのではないだろうか。事業そのものがシュリンクしていく市場であれば、投資には値しない。事実、同社自身がリリースで述べているように、国内のミネラルウォーター市場は<輸入ミネラルウォーターの大幅な落ち込みにより前年に対し4%~5% 程度縮小>している。節約志向を高める消費者は、マイボトルがすっかり定着し、水道水をポット型浄水器で浄水して飲む水道派も増加しているという。しかし、そのマイナスを国内産が補って<清涼飲料市場内の構成比で約10%>を保っている。にわかに市場自体が消滅することのない、消費者から「市場認知シェア」を与えられていると判断してのことだろう。
もう一つ、アサヒ飲料が10%へのこだわりをもって、経営の舵を切った例がある。今を去る3年前、2007年のこと。「カルピスとの自動販売機事業の統合」である。日本には自動販売機が約200万台強が存在し、その中でもコカ・コーラが98万台を保有する圧倒的なリーダー企業となっている。その中で、当時、事業統合によってアサヒ飲料はグループで自動販売機22万台を保有する、約10%のシェアで第4位となることができたのだ。
通常、業界内のポジションが下位、低シェアのプレイヤー同士の合併や統合は「弱者連合」などと揶揄され、効果が低いといわれることが多い。しかし、同社のように、その数字の意味するところを見据えて、戦略的な提携・統合を繰り返してチャレンジャーのポジションを確保することは極めて有効であるといえる。
日本という市場全体は、もはや縮小が否めない。市場の片隅でフォロアーとしてそっと存在することは不可能であり、何とか規模を確保してチャレンジャーとなるか、独自のファン層を集めて生存領域を確保するニッチャーになるしかないのだ。
アサヒ飲料のミネラルウォーター事業は、今後、「富士山のバナジウム天然水」と「六甲のおいしい水」という両ブランドをどのようにポートフォリオ上で調整していくかという舵取りが求められる。ニュースリリースによると、前者を「高付加価値型ミネラルウォーター」、後者をスーパーなど量販店を中心とした「生活水」と位置づけている。だとすると、前者を小型PETボトルに、後者を2l等の大型PETボトルに集約していくのかもしれない。
今後の同社の動きに注目したい。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。