4月、2010年度のスタート。慣れないラッシュにもみくちゃにされた新入社員らしき若者が急ぎ足で行き交う地下鉄の構内。ふと壁を見れば、いくつかの新しいポスターが目にとまった。
上記資料を見ると、経営ビジョンとして掲げられている「東京を走らせる力」のページで東京メトログループのネットワークが書かれているが、鉄道以外の関連事業の多さに今更ながら少し驚く。「私たちの決意」の中では、鉄道事業の「安全」ともう一つの柱として、『お客様視点に立った質の高い「サービス」への対応』とある。少子高齢化という社会構造の変化とニーズの多様化に対する対応であるとしているが、この対象事業は明言されていない。しかし、経営戦略の「持続的な経営価値の向上を目指して」という中では、明確に「鉄道事業と関連事業のシナジー」が掲げられている。そして、「中期経営計画」の関連事業の項では、「流通事業」がシナジーを発揮すべき対象として積極的な展開を行う領域であるとしている。
そうなのだ。少子高齢化はこれからどんどん加速する。となれば、黙っていれば乗客は減る。「関連事業」の重要性は増すばかりだ。
流通事業では、東京メトロは表参道と池袋で改札外駅ナカ商業施設の「Echika(エチカ)」を展開する。JRなどと異なり、狭い駅構内での展開には無理があるが、乗降客の動線上にある商業施設は抜群の立地である。
もう一つのチャレンジは、昨年11月にオープンさせた池袋の駅直結の商業ビル「Esola(エソラ)池袋」だ。同じようでエソラの位置づけはエチカとは異なる。駅直結とはいえ、乗降客の動線上にはないため、足を運ばさなければならないからだ。
駅ナカビジネスで活況を呈するJRでも、実は駅ビルのルミネは成長に黄色信号が灯った。低廉な価格で人気を呼ぶH&Mなどのファストファッションに客を奪われているからだという。動線上にない、駅ソトの商業施設同士として競合関係が発生してしまうのだ。
東京メトロが「心をつなぎたい」のは、何より乗客とメトロ自身なのだろう。より身近な存在として、その存在をアピールし、清々しく好感度を高め、乗降の際にはちょっと商業施設を利用してもらう。何か買い物の際には足を運んでもらう。そんな関係を築きたいに違いない。
地下鉄の会社は、地下で電車を走らせる。それだけでは済まない時代。単なるインフラ。社会の裏方という存在ではなく、生活者との関係をアピールして距離を縮めなくてはならない。そんな意識がポスターやCMに現れているのだろう。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。