会社の危機は経営者の責任なのか?現場はどうすればいい?
本当は、現場の方が危機を察知しやすいはずだ。
「カモメになったペンギン」という本がある。ハーバード・ビジネススクールの組織行動論担当教授ジョン・コッターが「企業変革の8ステップ」を分りやすく絵本にしたものだ。ある日、好奇心旺盛な若いペンギン、「フレッド」が地球温暖化の影響によって自分たちの住むコロニーがある氷山が崩壊の危機にあることを発見した。ペンギンの世界は一人の指導者とそれをサポートする十数羽のメンバーによる会議体で運営されている。フレッドは行動力のあるボードメンバーの一人である女性リーダー「アリス」に相談する。紆余曲折あるが、優秀な指導者「ルイス」によって、コロニーの移住計画を立案・実施するチームが結成される。
いわゆる組織変革とリーダーシップがテーマであるが、優秀なトップ一人がいるだけではダメだということがポイントの一つである。そして何より、危機を発見し、指導者会議に熱心に伝えたのは一般ペンギンなのだ。つまり、「現場」だ。現場が「見ていない」「見たくない」であったら、ペンギンのコロニーは大惨事と化したはずなのだ。
では、現場は何をするべきなのか。手書きカードを配るJALの社員の心情はわかるものの、今さらそれは間に合わない。もっと前に、危機意識を働かして、何か動き出せることもあったのではないかと。現場がアンテナを張り、危機があればそれに対応する動きをいち早く行える組織が生き残れる組織なのではないか。
日航には株式会社ジャルエクスプレス(JEX)という子会社がある。Wikipediaにも記述されているように、同社は客室乗務員をスカイキャストと呼んでいる。<通常の業務に加え、他社は外部委託する機内清掃などをスカイキャストやJEX社員が行う事によって、費用削減と時間短縮をし、多頻度運航を行うものである>とある。08年10月の朝日新聞にもその様子が紹介され、「客室乗務員から社長までが 機内掃除に加わるといった独自のコスト削減策で、原油高の中でも好調を保つ」との記事になっていた。今回の日航の法的整理で同社がどうなるか心配だが、小さな子会社は方向転換もしやすく、危機意識が高く、動きがよかったのは間違いない。そして、それは「現場発」の動きだったのだ。
「会社は急には変れない」。特に大きな企業ほど慣性の法則に従って、停止や方向転換が難しい。そして、組織は上に行けば行くほど、「本当の危機感」が持てなくなる。
ジョン・コッターは「危機感と本当の危機感は違う」と指摘する。「本当の危機」をリアルに思い描けるか。「このままだと、本当に死んでしまう」というレベルのリアリティーだ。ある朝、新聞を見ると自分の会社の倒産記事を見る。自分がハローワークに並ぶ姿を想像する。そんな危機感だ。
「会社を潰すのは不況ではない、社長だ」。確かにそれは間違いないだろう。しかし、日々目の前の危機を「見ていない」「見たくない」として、「明日が今日の続き」だと思ってたら、「現場も間違いなく、会社を潰す」。
ケネディは「国に何をしてもらうかではなく、国のために何をできるかを問え」と言った。では現場として「会社に何をしてもらうかではなく、会社のために何をできるかを問え」と考えよう。それは、「会社のため」ではなく「自分のため」である。自分としての「本当の危機」が現実とならないために。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。