患者自らの骨を使って骨ネジを作り、そのネジを使って治療する。従来行なわれていた金属ネジを使った手術に比べれば、手術が一度で済み、ネジ代も不要。患者さんに画期的なメリットをもたらす骨ネジは、どうやって開発されたのか。島根大学医学部・内尾教授のグループによる開発プロセスを紹介する。
■開発までにどれぐらいの期間が必要でしたか
-ほぼ一年ぐらいじゃないでしょうか。実験してはデータを取り、作り直してはまたデータを取る。一年かけて1000本ほどのネジを試作し、データを取っていきました。
■1000本ですか
-専属スタッフが3人、彼らが毎日かかりっきりになってました。だから骨ネジに関してのデータ蓄積量は、当社が間違いなく世界一だと思いますよ。
■そのデータが内尾教授のところでもフルに活用されたわけですね
-共同研究ですから。我々としてはずいぶん持ち出しになってしまいましたが(笑)。とはいえイノベーションアワードを取ったことも含めて、当社としては宣伝効果があったと思っています。
■ただ普及のためのハードルが高いと内尾教授からは伺いましたが
-そこですね。医薬品と同じぐらい厳しい審査を通らないと実用化は無理でしょう。仮に審査を通ったとしても、流通経路の問題がありますから。
■ナノ社としては、このマイクロマシンの今後の可能性をどうお考えなのでしょうか
-売り先となるのは大学さんですね。といっても島根大学さんのように臨床実験をしてくださいといった形で持って行くのは難しい。だから基本的には物性試験用にお使いいただけませんか、というスタンスです。実際にお買い上げいただいた研究室が、どう活用されるのかは自由ですから。
■骨ネジの将来性については、どうお考えですか
-純粋にアイデアはすばらしいと思います。アイデアを形にするマシンもすでにできあがっている。ただ、その普及については、数億円のコストがかかる厚労省の認可に加えて商流の問題もあります。こうした問題をどう解消できるか次第だと思います。
~特集インタビュー
「日本初、自分の骨で作る骨ネジ誕生のプロセス」完~
『島根大学 関連リンク』
島根大学:http://www.shimane-u.ac.jp/index.php
島根大学医学部:http://www.med.shimane-u.ac.jp/
株式会社ナノ社:http://www.nanowave.co.jp/info/company.html
【Insight's Insight】
3年ほど前にNHK「クローズアップ現代」で『なぜ高い?医療機器の値段』と題した番組が放送された。本稿でも少し触れたが、骨折手術に使われる金属ネジはアメリカからの輸入品で10万円近くする。が、驚くなかれ、同じネジがアメリカではせいぜい4万円ぐらいしかしない。
ことはネジにとどまらない。例えばカテーテルも、アメリカからの輸入品が使われている。元をたどればそのほとんどが日本メーカーの製品であるにもかかわらず、日本ではアメリカの4倍ぐらいの価格がついている。なぜ、そんなことが起こるのか。日本メーカーの製品がいったんアメリカに輸出され、アメリカの商社を通じマージンを上乗せされてから日本の医療現場に届けられるからだ。
いま日本の医療現場で使われる医療機器の多くはアメリカからの輸入に頼っている。そして、これらの医療機器には高額のマージンが課せられているのだ。こうしたいびつな構造の起こりは80年代の日米貿易摩擦に遡る。当時、日本製品、特に自動車の対米輸出がふくらませた貿易赤字に業を煮やしたアメリカ政府は、強硬にその見返りを求めた。その結果、医療機器はアメリカから輸入するという流れが作り出された。
医療費高騰が問題視される日本で、医療機器を国産品に切り替えれば治療コストは大幅に下がるだろう。ところが、あえて高い米国製品(メーカーは日本企業であることも多いのに)を使わなければならず、それが結果的に患者に負担を強いる現状となっている。この状況に蟻の一穴でもよいから風穴を開けたいという思いも、骨ネジ開発に至った内尾教授たちの問題意識にはあるのだ。
骨ネジ製造器を医療現場で使うためには、医療機器として厚労省の認可を取らなければならない。そのためには医薬品と同じレベル、つまり数億円のコストがかかるという。最後に残された最大の関門をいかにクリアするのか。これが内尾教授グループの悩みの種だ。
医療機器の問題に関心のある方がおられれば、ぜひ「医療機器&クローズアップ現代」で検索していただきたい
(http://www.google.co.jp/search?hl=ja&safe=off&client=firefox&rls=org.mozilla%3Aja-JP-mac%3Aofficial&hs=IxQ&num=50&newwindow=1&q=%E5%8C%BB%E7%99%82%E6%A9%9F%E5%99%A8%E3%80%80%E3%82%AF%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%82%BA%E3%82%A2%E3%83%83%E3%83%97%E7%8F%BE%E4%BB%A3&btnG=%E6%A4%9C%E7%B4%A2&lr=lang_ja)。
◇インタビュー:竹林篤実 ◇構成:竹林篤実
◇フォトグラファー:武智正信 ◇撮影協力:スタジオマックス
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FMO第29弾【島根大学】
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2009.11.19
2009.11.12
2009.11.05