いわゆる「ソーシャル・メディア」を通して、顧客が雲(クラウド)の中で自由に物申す時代、顧客が雲の中に入り、市場が見えなくなってしまった時代に、企業も雲の中に入り、顧客との対話を始めなければならない。今回は、アメリカの事例を紹介。
想像に難くないことだが、ザッポスの「クラウド活動」も、上に挙げたモットーのもとに運営されている。
顧客がオンラインで物を買うとき、その目の前にあるのは硬く冷たいPCモニターだけ。そして、マウスのクリックひとつで店から店へと瞬間移動できてしまう流動性がある。ともすれば、無機質になりがちなウェブ・ショッピングに人の温かみや面白さを導入しようというのが、「クラウド」を通したザッポスの試みなのだ。
ウェブ時代のブランディングには「人」が最強の媒体
日本でも最近話題になってきたツイッターだが、ザッポスのCEO、トニー・シェイは、なんと150万人を超えるフォロワー(購読者)をもつ。それだけではない。現在1,400名いる社員のうち、500人近くが、「ザッポス」の看板を背負い、ツイッターでつぶやきを発信している。
ザッポスのサイトには、常時12本のブログが同時進行する。世界最大のSNS、フェイスブック上にあるザッポスのページには、25,000人近い「ファン」が存在する。社員五人から構成される「オーディオ・ビジュアル班」が、ザッポス社内の様子を伝えるビデオ映像を毎日のように制作し、ユーチューブなどを通してウェブで公開する。
ツイッターをとっても、ユーチューブをとっても、従来でいうところの「宣伝」があるわけではない。CEOのトニー・シェイをはじめ、普段着の社員が、飾らない言葉で、日々の出来事、感じたことを、感じたままに発信している。
ちなみに、感謝祭を間近に控えた本日のエントリーでは、社員有志が、アメリカ家庭の感謝祭の食卓を飾る、思い思いの「好物」について語っている。かと思えば、感謝祭翌日の、「ブラック・フライデー(アメリカのリテーラーにとっては、年間で一番の稼ぎ時。クリスマス商戦の幕開けとして、様々な目玉セール・イベントが展開される)」に向けて、社員が思い出の逸話を語る映像もある。
普通の会社には、役職としての「スポークス・パーソン」がいるが、ザッポスでは、全社員1,400名が「スポークス・パーソン」だ。旧来型の人材管理は、「見ざる、言わざる、聞かざる」で、社員は「会社」という仮面をかぶり、右へ倣えの行動をとるのが良しとされていた。しかし、ザッポスでは、これとはまったく逆のアプローチをとる。共通の「企業文化」と「価値観」という筋を通した上で、電話でもウェブでも、社員の「個」を前面に押し出そうというのが、ザッポスの考え方だ。
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ブランド戦略
2015.07.13
2013.02.08
2010.07.30
2015.07.27
2015.07.17
2020.04.24
2020.07.28
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。