ITの世界のこととして専ら語られている「クラウド・コンピューティング」。しかし、「市場のクラウド化」は、流通業のみならず、ビジネスの世界全般を大きく揺さぶるものだ。果たして企業は顧客の流れについていけるのか!?
しかし、多くの企業は、未だにカスタマーセンターで電話が鳴るのを待つばかり。その結果、企業と顧客との断絶が起こっている。恐るべきことに、今どき、多くの顧客は企業なんて頼りにしていないのだ。企業に問い合わせるより、自分たちの仲間である「顧客」のほうがものをよく知っている。苦情を言うにしても、ずっと手ごたえがあり、満足感が得られる。このようにして、世の企業は顧客に見捨てられつつあるのだ。
電話が鳴るのを待つばかりの受身のカスタマーセンターは時代遅れだ。より楽しいショッパー体験、より充実したユーザー体験を求めて顧客が雲の中に蒸発していく中、「市場のクラウド化」に対応するカスタマーセンター、ひいては企業組織を創らなくてはならない、というのが、アメリカでは、今、企業が第一に優先すべき課題として話されるようになってきている。
「市場のクラウド化」の怖さのひとつは、いつ何時、かみなり雲が発生し、「顧客の怒り」という落雷が落ちてくるかわからないということだ。
カスタマーセンターに電話をしていくら苦情を言っても、ご意見箱に投票してみてもラチがあかない、という声をよく聞く。クラウドにはけ口を求める人が多くなっている。ウェブ以前のアナログの時代には、悪い噂はせいぜい直近の知人や友人にしか広まらなかった。だが、クラウドの時代には、悪事は瞬く間に千里を走る。「個」の顧客の怒声が、数千人に共鳴して、企業の手に負えない一大事になったという事例がアメリカでは後を絶たない。
今年の7月、「United Breaks Guitars(ユナイテッド航空はギターを壊す)」と題するミュージック・ビデオがYouTubeに投稿されて、大騒動を巻き起こした。あるカナダ人ミュージシャンがツアーに行くためにユナイテッド航空を利用したのだが、その際にチェックインした愛用のギターを無残にも壊されてしまったのだ。当然、彼はユナイテッドにギターの修繕費の支払いを求めたが、取り合ってもらえない。何ヶ月もたらい回しにされた挙句に、「ユナイテッドは責任を負わない」との返答。そこで彼は、自分の体験を歌にし、クラウドの声を仰ぐという手段に出た。
7月6日に投稿されたこのビデオが、10日間で再生された回数はなんと300万回以上。最初の4日間でユナイテッド航空の株価は10%減少し、時価に換算して約180億円相当の損害となった。勿論、株価の下降をすべてこのビデオのせいにするのは短絡的思考すぎるかもしれないが、まったく無関係であるとも言い難い。まさに、「クラウドの怖さ」を知らせしめる出来事だったのである。
顧客の怒声が積乱雲を呼び、企業の頭上に落雷した例は他にもある。でも、「市場のクラウド化」は、企業にとっていやなことばかりを引き起こすわけではない。「クラウドの力」を味方につけることによって、顧客の真の声を取り込み、顧客との距離を縮めることに成功している例もある。次回は、アメリカにおける「クラウド利用」の成功例をご紹介しよう。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
市場変革
2013.01.09
2010.12.17
2010.08.25
2009.11.18
2009.10.17
2020.05.15
ダイナ・サーチ、インク 代表
ダイナ・サーチ、インク代表 https://www.dyna-search.com/jp/ 一般社団法人コア・バリュー経営協会理事 https://www.corevalue.or.jp/ 南カリフォルニア大学オペレーション・リサーチ学科修士課程修了。米国企業で経験を積んだのち、1982年に日米間のビジネス・コンサルティング会社、ダイナ・サーチ(Dyna-Search, Inc.)をカリフォルニア州ロサンゼルスに設立。米優良企業の研究を通し、日本企業の革新を支援してきた。アメリカのネット通販会社ザッポスや、規模ではなく偉大さを追求する中小企業群スモール・ジャイアンツなどの研究を踏まえ、生活者主体の時代に対応する経営革新手法として「コア・バリュー経営」を提唱。2009年以来、社員も顧客もハッピーで、生産性の高い会社を目指す志の高い経営者を対象に、コンサルティング・執筆・講演・リーダーシップ教育活動を精力的に行っている。主な著書に、『コア・バリュー・リーダーシップ』(PHPエディターズ・グループ)、『アメリカで「小さいのに偉大だ!」といわれる企業のシンプルで強い戦略』(PHP研究所)、『ザッポスの奇跡 改訂版 ~アマゾンが屈した史上最強の新経営戦略~』(廣済堂出版)、『未来企業は共に夢を見る ―コア・バリュー経営―』(東京図書出版)などがある。