手塚治虫生誕80周年となる記念すべき年。『鉄腕アトム』がハリウッド版『ATOM』となってリメイクされた。世界進出である。日本で生まれた『鉄腕アトム』が、なぜ、これほどまでにハイパフォーマンスなのかを、改めて考えてみた。
21世紀に間に合いました。
これは、ガソリンエンジンと電気モーターを併用した世界初の量産ハイブリッド車・トヨタ「プリウス」が発売された時のキャッチコピー。1997年12月のこと。約12年前、環境意識は高まりつつあるものの、まだまだ、消費の実態は、重厚長大を追いかけていた時代である。
そんな時代に、小型車枠のボディに先進技術を詰め込んだエコ・カー「プリウス」の広告に起用されたイメージキャラクターは、日本のマンガの源流と言われている手塚治虫の「鉄腕アトムとお茶の水博士」。ラララ科学の子らが、とうとう、やって来た。プリウスとアトム、、、そのコラボレーションは、ハイパフォーマンスであった。
座敷童子(ざしきわらし)と鉄腕アトムの共通点。
座敷童子とは、座敷または蔵に住む精霊。見た者には幸運が訪れる、家に富をもたらすなどの伝承があり、岩手県や青森など、主に東北地方で古くから伝えられている。その起源について、民俗学者・佐々木喜善は、圧殺されて家の中に埋葬された子供の霊ではないかと述べている。 東北地方では間引きを「臼殺(うすごろ)」といって、口減らしのために間引く子を石臼の下敷きにして殺し、墓ではなく土間や台所などに埋める風習があったという。
家の繁栄のために犠牲=人身御供(ひとみごくう)にした赤ちゃんへの後ろめたさを払拭するために創造された物語が「座敷童子」なのである。家の継承の為に人柱となった「永遠なる子供」を、永遠なる家の繁栄のシンボルとしたのだ。
その座敷童子の物語に「鉄腕アトム」を当てはめてみよう・・・。
ロボットであるが故に、永遠なる子供の身体を持つアトムは、人間のエゴや矛盾と闘い続ける。そして、最終回では、地球のために、真っ赤に燃える太陽へと、その身を投じていく。地球繁栄のための人身御供が「鉄腕アトム」である。鉄腕アトムは、エゴの塊である私たち人間の「人柱」となる物語であったのだ。
※参考文献「人身御供論」大塚英志著
後ろめたい「個」を乗り越える力を宿すポップカルチャー。
人間は「個」に向かうとロクでもない動物になる。怠けることをいっぱい考える。自分だけ得することだけに執着する。後ろめたい自分を、誰もがいっぱい抱えて生きている。
しかし、その後ろめたい自分に代わって「鉄腕アトム」を始めとするアニメのキャラクター達は、自分自身や社会の矛盾に挑み、そして成長してくれる。
ダメダメだと無意識に自覚をしている「個」を乗り越える力が、素敵なアニメやポップカルチャーには宿っているのだ。ニッポンのポップカルチャーがハイパフォーマンスである理由は、ここにある。
次のページ「MOTTAINAI」発のハイポップカルチャー。
続きは会員限定です。無料の読者会員に登録すると続きをお読みいただけます。
- 会員登録 (無料)
- ログインはこちら
私的マーケティング論
2009.12.18
2009.12.12
2009.11.20
2009.11.01
2009.10.29
2009.10.28
2009.10.19
2009.09.29
2009.09.22
有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役
昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。