2期連続で増収増益、8年ぶりに最高益を書き換え、「一人勝ち」といわれるファーストリテイリング。今月8日に前期連結決算を発表したあとに、東証で記者に囲まれコメントした柳井ファーストリテイリング会長兼社長の言葉は、事実上の「無敵宣言」と解釈できる。
もう一つの発言も興味深い。
<(低価格品でいうとファストリ傘下のジーユーが)990円のジーンズを発売した時は新しい価値創造があった。(他社が出した)880円や850円の商品は価値を生んでおらず(そんな状況だと)最後は無料になるのでは」>
ジーユーに対抗し流通各社のジーンズの値下げが相次いでいる。ザ・プライス:980円、ダイエー:808円、イオン:880円、西友は3月に1,430円で発売したが、ついに10月1日から850円ジーンズを投入した。
西友は親会社のウォールマートが展開している英国のグループ会社が開発した衣料品のプライベートブランド、Georgeでカジュアル衣料も比較的充実している。しかし、他社を見ると格安ジーンズとコーディネートするようなラインナップはあまり見受けられない。ジーンズだけが突出して安いのは、ジーンズをロスリーダー(目玉商品)にし、ジーンズ単体では収益は出ないものの、それで集客を図ろうという戦略であるとも考えられる。
つまり、柳井会長兼社長の「最後は無料になるのでは」とは、集客のために無料配付しているのと変わらないとの指摘であると考えられる。それに対して、ジーユーは、全商品の1/3を990円で構成し、秋冬物にもかかわらずトップスとボトムをコーディネートして全身で5,000円以下で揃えられるというラインナップを誇る。低価格で提供してもしっかりと収益を上げられる。顧客は安価に、そこそこの品質・オシャレ感なものを揃えられるというWin-winな価値の共有ができているのである。それは、6月2日に「ケタ違い宣言」として、事実上の最安値宣言を行ったジーユーによって、ファーストリテイリングが低価格帯で盤石のポジションを築いたことを意味しているのである。
しかし、その発言の続きが、狙いは低価格での覇権を握ることだけではないことを示している。
<-デフレ不況についてはどう見るか。「消費者は毎日990円のジーンズばかりはいても楽しくない。日によって3,990円のジーンズでも1万円を超えるジーンズもはきたいだろう。990円に集約されるわけではない」>
1990年代後半、ユニクロがまさに成長の軌道に乗ろうとしている時に、柳井会長兼社長は「顧客に全身をユニクロでコーディネートさせようとは考えていない」と述べていた。だが、現在は前述の通り、価値の軸にファッション性を取り込んでユニクロで全身コーディネートしてもしっかりオシャレに仕上がるようになった。ジーユーも低価格で全身を、そこそこではあるがオシャレにコーディネートできる。しかし、柳井会長兼社長は顧客にはユニクロ、ジーユーという単一ブランドでコーディネートさせるわけではなく、どちらも取り入れて利用させようという意向であることが読み取れる。
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2009.02.10
2015.01.26
有限会社金森マーケティング事務所 取締役
コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。