昨年末のことである。世界同時不況のニュースが世界を駆けめぐる中、史上空前規模ではないかと言われる詐欺事件がアメリカのウォール街で発覚。日本のメディアでは、不思議なほどにニュースにならなかったので、改めてご紹介することにする。
詐欺事件の首謀者は、バーナード・マドフという71才になるおじいさん。この人の肩書きは、なんとナスダック元会長。ナスダックと言えば、ニューヨーク市場と並ぶ米国の代表的な株式市場のこと。その他にも、米証券取引委員会(SEC)の諮問委員など米証券界の要職を歴任、ウォール街の実力者と評価されていた。
この立派な肩書きのおじいさんの経営している「マドフ投資証券」に集まった500億ドル=約4兆5000億円に対して、自ら「ここ数年のすべての投資は架空だった」と告白。巨額詐欺を行っていたとしてFBI(連邦捜査局)に逮捕されたのだ。
※月刊『FACTA』2009年3月号 gooニュースより
米欧メディアの発表によると、世界中の銀行や投資系の企業が被害にあっている。日本では、野村ホールディングスが約275億円、あおぞら銀行が124億円の投資残高があることが明らかになっている。
※資料 米マドフ容疑者の巨額詐欺、野村HDも275億円を投資 AFP BB Newsより
※資料 投資経済データリンクより
詐欺の手口は、「顧客からの投資金は別の顧客への配当の原資に充てた」という単純なもの、いわゆるネズミ講である。投資家の口座証明書に年15%前後の利回りがあったように偽装。新規の投資家が払い込んだ資金を、古くからの投資家に回して配当を装っていただけのこと。ただ集まるお金の量が半端じゃないから、10%以上の配当を払い続けられた。
しかし、今回の金融危機で、新規のお金の集まる量が減っちゃって、ごめんなさいで→もう無理で→御用というわけだ。
では何故、生き馬の目を抜く金融業界のプロたちは、不正を見抜くことができなかったのか?配信されたニュースから拾ってみると「半端じゃないマドフ容疑者の華麗な経歴、社交的な性格、逆境の中でも必ず出す高配当。さらに、投資家リストに著名な投資家を多数並べれば、投資のプロといえども幻惑される」「ナスダック会長までやった人だから、何らかの特別な情報を持っていたと多くの投資家は思い、長年の高配当に納得していた」などのコメントが出てくる。
要は、肩書きにまんまと騙されていたのだ。マドフのじいさんのところに名前が並べば、「投資のプロ中のプロ」の気分になれるから。『どんな不況下でも抜群の運用成績を出した伝説の男』は、『史上空前の詐欺師』だったのだ。
世界中の拝金主義の真ん中は、こんなもの。頭でっかちな世間知らずほど、肩書きを信用する。そんなアホみたいに軽い信用は、すぐにはじける、収縮する。それが、信用恐慌の根本なのだろう。きっと。
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有限会社ペーパーカンパニー 株式会社キナックスホールディングス 代表取締役
昭和30年代後半、近江商人発祥の地で産まれる。立命館大学経済学部を卒業後、大手プロダクションへ入社。1994年に、企画会社ペーパーカンパニーを設立する。その後、年間150本近い企画書を夜な夜な書く生活を続けるうちに覚醒。たくさんの広告代理店やたくさんの企業の皆様と酔狂な関係を築き、皆様のお陰を持ちまして、現在に至る。そんな「全身企画屋」である。