近鉄グループの「沿線住民囲い込み」の妙

2009.02.23

経営・マネジメント

近鉄グループの「沿線住民囲い込み」の妙

金森 努
有限会社金森マーケティング事務所 取締役

近畿日本鉄道グループが、「“楽・元気”生活」と称して奈良県と京都府の一部で生活応援事業を展開している。その姿こそが少子高齢化が鮮明になり、「縮む」日本市場での生き残りの正しい姿を現しているといえるだろう。

しかし、前述の通り、今日の日本の鉄道グループにはさらに、少子高齢化・人口減少という絶対的な顧客減少に直面している。日本における「沿線開発」のモデルも、沿線人口そのものが減少しているため、縮小を余儀なくされる。しかし、鉄道という地域に根ざした産業故、その地域を離れることはできない。

企業の成長戦略を考えるフレームワークに、イゴールアンゾフが提唱したマトリックスがある。既存の顧客を対象にするのか、新規の顧客を狙うのか。既存の製品を用いるのか、新製品を開発するのか。顧客・製品、新規・既存の掛け合わせの4つのマトリックスとなる。
沿線に新規顧客は望めない。さりとて、グループの原資を活用しない新製品(新事業)では効率が悪い。だとすれば、既存の顧客に既存の製品を提供する「市場浸透策」、つまり既存顧客の深掘りしかない。
しかし、この「市場浸透」は非常に手堅い手でもある。マイケル・ポーターによれば、マトリックス中の4つの象限において、その市場浸透は75%の成功確率と最も失敗がないという統計を示しているという。

購入商品の宅配という利便性を提供するサービスの拡張。タクシーにチャイルドシートを装備するという安心感の提供。少人数・単身世帯の増加に対応したミニ引越というサービスの分割。いずれも「かゆいところに手が届く」サービスだ。
顧客の囲い込みは、まずはその「利便性の提供」であり、「自分にピッタリ」と思ってもらい、使用・利用機会を増大させることにある。そうして、さらにサービスの提供者との距離感を縮めてもらい、ロイヤルティーを向上させることにある。

近鉄グループの「沿線住民囲い込み」はまだ、始まったばかりだといえるだろう。しかし、それは、セオドア・レビットの「顧客中心主義」や、小林 一三のビジネスモデルをさらに進化させた、「縮む市場」における生き残りモデルを体現したものであることは間違いない。他の企業や事業にとっても参考になるだろう。

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金森 努

有限会社金森マーケティング事務所 取締役

コンサルタントと講師業の二足のわらじを履く立場を活かし、「現場で起きていること」を見抜き、それをわかりやすい「フレームワーク」で読み解いていきます。このサイトでは、顧客者視点のマーケティングを軸足に、世の中の様々な事象を切り取りるコラムを執筆していきます。

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